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「忍び込む」

合いカギを作りました 合鍵です
ぼくは 勝手に 会社の同僚である彼女の家に入れる鍵を作ったのです
簡単です
彼女のバッグの中に光って見えた鍵
彼女が席を離れ 誰もいないときに
すっ

取り出して 鍵に刻印された番号をカシャリ

撮影
その番号が分かれば ネットで合鍵が注文できちゃうのです

彼女は仕事 僕は休み
住所は分かっています
どんなところなのか ググ―ルストリートビューでも 確かめてやってきました 彼女の住むマンション
オートロックになっていない やや築年数が古い ところ
簡単に彼女の部屋の前まで行けます
カチャン

音を立てて 合鍵は 彼女の部屋のドアを開けてくれました
ぼくは38歳 彼女は同僚 正確にいうと彼女は上司 一回り年上で五十路に入ろうという人です 美しい人です

その家に入りました
玄関に入ったとたん
彼女の匂いが 圧倒的な匂いが そこに充満する匂いが
生々しい 女ざかりの匂いが
玄関から廊下の先まで 満ち満ちて
ぼくは 誰もいない 彼女が 何時間か前まで居た空気を思い切り 吸い込んだのです
一人くらしの1LDK
鼻孔をくすぐる 生々しい匂いに
ぼくの分身は 勃起しました 硬く熱くなりました
これまでにない興奮が 体の芯から湧きあがり 血が速く流れるのを感じました
平日の昼間です
彼女が突然帰宅することなど 万に一つもないでしょうが
ぼくはここで何一つ痕跡を残してはいけないのです
シリコーンの手袋をはめて 部屋の中をやさがししました
入って左手にある部屋に入ると
ベッドと大きなクローゼットがあり
バタンバタン

扉を開けていくと
クリーニングのビニールがかかった冬物のコートやスーツが そのまま掛けられ
ドライクリーニングの溶剤やらビニールやらの匂いが充満します
その隣のクローゼットには
今の季節に彼女が脱ぎ着している服があり
そこからは 彼女の生々しい匂いが漂います
下の引き出しを開けると 下着です
ブラジャー パンティー
小さく丸めて納められた それらを
ひとつひとつ 広げてみました
誰かに見せるような レースや透けたような セクシーなものが案外となく
どちらかというと
おばさんパンツといった体のものばかりで
逆にぼくは
彼女が 誰のものでもないのだ

確信に近い思いを持ちました
さらに興奮が高まりました
ベッドに腰を下ろし
ここで彼女が毎夜ひとりで寝ている
ぼくと同じだ ひとりで
そう考えると
下半身の熱さ硬さが治まり
ズボンに小さな染みが出ているのに気づきました
ああ
それ以上 もうそれ以上
暴れないようにしないと
ここには ぼくの痕跡は残していけないのだから
ぼくは すべて何事もなかったようにして
もう一度 彼女の部屋の空気を せいいっぱい吸い込んで
静かに部屋を出ました
ちゃんと 鍵をかけて

彼女は この先も きっと何事もなく 職場でも接してくれるでしょう

この合鍵は いつでも使えるのです

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