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雪降りたれば

紫乃羽衣

冬になれば雪が降るという地域でもないから、雪が降ると少し嬉しくなる。
都市機能が凍りついてしまうけれど、特に自分はそれで困ったことはない。

いつ以来の雪だろうかと思えば、これだけ降ったのは大学1年生の1月以来のような気がする。
あの日は、とても大雪だった。
部活動で、どうしても日程が厳しかったら写真撮影だけするために食堂に集まったことを今でも覚えている。
帰る頃には雪が大量に積もっていて、土手のあたりに何人かで同時に飛び込んでいた奴らもいた。あの時は、何を寒そうなことをしているのだろうと思ったのだけれど、今思えばなかなかに微笑ましい光景だった。
写真撮影のために、いくつか先の駅から歩いてきていたのに、間に合わなかった先輩は今でも元気だろうか。

食堂の一階、少し暗い中で道ゆく人たちを見ていた。
まだ降り始めだったから、傘をさしている人もいなかったけど、皆寒そうに肩もすぼめていめた。

かき揚げの乗った温かいうどん。かき揚げが赤くなるほどに七味を入れるのが、某名誉教授風。

あの時は、初めて小説を書き上げた時だった。雪女の出てくる話。
今でも、なかなかの作品であるように思う。
雪が降ることなんか全く気にせずに書き始めた雪女の出てくる小説が書き上がった時に偶然雪が降り始めた。何かの運命だったのだろうなと思う。

当時の付き合っていた彼女に小説を読んでもらったら、雪の降り始めた日に、すごい偶然だねと言ってくれた。同じことを考えていたらしい。

これから、君は小説を書いていくんだよ、と世界が語りかけてくれたかのようだった。

とてもいい気分で胸の辺りが熱くなったのは、かき揚げと彼女の言葉のおかげだけじゃないだろう。

雪こそ自分のスタートだった。


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