見出し画像

4/4「たまに、完全に見える時がある」

ライブハウスの今を取材する連載ドキュメント「まちにうたがもどるまで。」第2弾は埼玉県のみずほ台にある小さなライブスペース「Acoustic House おとなり」の今をお届けします。本日は最終話。音楽を通じて知った「やさしさ」の意味とは?はじめての方は1話目からどうぞ。

ーコンピにしても、ボイスメモRECにしても、共通のキーワードに「場所」があると思うんです。
深井さんは、場所のことを大切にする人ですよね。

ネット社会になればなるほど、場所の価値が高まると思うんです。
こうやってオンラインで話すのが普通になるってことは、直接会う労力がハンパじゃなくなりますよね。

ーたしかに。
「わざわざ」会うことになりますもんね。

今回の件でハッとしたのは、ぼくらはもっと場所のことを大事にしなきゃなってことで。
例えばこれからのティーンネイジャーとか、ずっと配信ライブだけ観て育った子が、ライブハウスに来た時、きっと人生変わっちゃうだろうなって思うんですよ。

ー何が1番のちがいですか?
ネットとリアルって。

そうだなあ…。
オンラインって、基本的には目と耳しか使わないですよね。
動画観ながらイヤホンしてるだけなので。
でもライブハウスって、その場所とか集まった人の匂いがある。
空調とか、隣の人とすれ違うとか、肌で感じることもある。
さらにいうと、第6感というか、その場所とかそのミュージシャン特有の雰囲気もあって、使っている体のセンサーが、オンラインと比べて圧倒的に多いと思うんですよ。

画像1

ーあぁ、なるほど。
それは考えたことなかったです。
使ってる感覚が多いんだ。

それにライブって、生(なま)だから失敗ありきなんですよね。
オンラインって、間違いはカットできるんですけど。

ーあぁ、むしろネット方が、みんな間違えを修正してるかも。

ライブは、間違えていいんですよ。
間違いも含めて、その人のオリジナルだったりするし。
おとなりは20~30人でパンパンなんですけど、10人くらいのライブの方が、奇跡みたいな演奏が起きやすい気がしますね。

ーそれって、どんな奇跡なんですか?

なんだろうな…。
歌ってる本人も、全く予期してなかったような、歌い回しになったり、体の動きになったりして。
それを目撃している人がいて、その全部が、お互いの不自然さを補い合って、たまに完全に見える、みたいな。
…ちょっと感覚的な話なんで、キモいですかね(笑)
こういう話こそカットしてください(笑)

ーいや、バッチリ原稿にしますよ(笑)
最近の深井さんのツイートで「やさしさ」について触れてる一文があって。
ぼくはそれがとても印象的だったんです。

最近SNSを見ていて、なんだかみんな、押し付けがましいなって思っていて。
誰も頼んでないよってことに、いちいち首突っ込んでいる感じがして。

ーこういう世の中の状況で、その色がより濃くなった気がしていました。

でも、そもそもやさしさって、そう簡単に人に与えられるものではないと思うんです。
今、ここにあるものを、やさしさだったんだってあとから気付くだけで。

ー「これはやさしさだ」って言って差し出すのは、そもそもやさしさではない、と。

そうです。
やさしさって、与える側の気持ちがどうこうじゃなくて、相手がやさしさとして受け取ったかどうかでしか、測れないから。
そういう意味で、ぼくは音楽を通じて、ある意味では勝手に「やさしさ」を学んで、ここまできたんだと思う。

画像2

ーじゃあライブハウスは、やさしさに気づく場所、ということになりますか?

うん。そうかも。
少なくとも、おとなりに集まってくれる人たちには、やさしさを返したいなぁと思う。
それは、みんながおとなりにやさしくしてくれるから。
もらったものを返し続けていきたいです。

ー今日はたくさん脱線もして、深井さんがなぜおとなりをやっているのか少し分かった気がしました。
最後にちょっと野暮な質問ですが、おとなりって深井さんにとってなんですか?

えぇ、難しいなぁ(笑)
「おれんち」かなぁ。

ーおれんち。
深井さんちってことですか。

ぼくの実家は川越の鰻屋なんです。
1階がお店で、2階が自宅なんですけど、こどもの頃はよく友だちが遊びに来てたんですよね。
それでぼく、うちに来てもらえるのがめちゃくちゃ嬉しくて。

ー友だちの中に1人はいましたよね、めっちゃ家に呼んでくれるやつ。

そうそう(笑)
マリオカートとポテチしかなかったはずなのに、めっちゃ楽しくて。
あの、子どもの頃の感覚でいたくて、お店をやってるのかもしれないです。

ー何もないのに行ける場所って、まさにオープン当初のコンセプトですね。

そうですね。
さんざん遠回りして、やっとオープン当初の理想に近づいた気がします (笑)
おもしろいのは、ぼくが「おれんち」だと思っていると、今度はおとなりのことを「ひとんち」だと思ってくれてるお客さんも現れて。

ー友だちの家に招かれた感じというか。

はじめてくるお客さんが「おじゃましま〜す」って言って入ってくるんです(笑)

画像3

ーハハハハハ!
それ、普通のライブハウスだとないですね(笑)

まぁ、だからこそ、ちゃんとしていたいというか。
人を迎え入れるんだから、ちゃんと掃除するし、エアコンつけとくし、お茶も出すし、みたいな。
そういう意味では、それもやさしさですね。

ー6月もイベントは休業ということで。
この判断にも、おとなりのやさしさを感じました。

かなり悩みましたけどね。
今はまだ「営業をしない」のもひとつの意思表示かなぁと思っています。
出演者がうしろめたさを感じずにライブができて、お客さんが堂々と「ライブハウスに遊びにいきます」って家族や同僚に言えるようになる日が早く戻ってくるといいです。

ー来年の春には、またみんなで桜が見られるといいですね。

はい。今から楽しみです。

画像4

(おわり)

Acoustic House おとなり についてはこちら
WEBサイト
OTONARI UNPLUGGED vol.1
note

取材・編集:久田 伸

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?