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道に名前をつけると、それまでなんとなく、こう、ぼんやりしてたものが、急に意識にポンと上がってくるようになる。

 いやあ、やっぱりもう100段階段のプロジェクトにデザインで関わってしまったので、どうしても美しが丘に来ると、必ず、ねぇ、100段階段が目に入りますよねぇ。写真も撮るんですよ、毎回。
 一番最初のたまプラとの関わりっていうのは、AOBA+ARTです。友達が出してたから、2008(平成20)年の1回目から見に来ていました。
 僕は建築家で、「トマソン[※]」とかすごく好きなので、まあ100段階段に関わる以前から、いろいろと街を歩いていたりしていて。 なかなかトマソンはないながらも、けっこう不思議な物件っていうのがあったり。ま、この街で一番最初に気になったのは段差。高低差が多いので排水管とかが壁面からいっぱい出てきてる。街全体に、いろんなところに、こう、あちこちにある。ものすごい落差があるところに、びよ~って排水管が出てきたりしていて。そういうのを写真に撮りまくっていたんですが、2016(平成28)年に、AOBA+ARTで僕の作品の屋台を使った遊歩道のデザインのワークショップをやった後に「ヨコハマ市民まち普請」に関わって、それで100段階段はじめ、「たまプラ遺産」とか、街全体のワークショップをやらせてもらうことになって。それでみんなでいろいろ知恵を絞って、結局「100段階段プロジェクト」に決定。今、ああいう形できれいなものができ上がった。なので、やっぱりどうしてもそれ以前に見てたいろんなところよりも、100段階段への思いが強いです。

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 僕は、東京に出てきてからは、根津。結婚してからは町屋、下町。まあ根津も下町なんだけど、町屋はさらに下町。下の下みたいなところなので、そういうところにずっと住んでると、僕の好きないろんなトマソン的なもの、いーっぱいあふれているんですよね。そういう本当に下町みたいなところからたまプラーザに来ると、すごくおしゃれじゃないですか。 僕がびっくりしたのは、最初に来たとき駅前のお店に入って、禁煙とか何も書いてないのにタバコ吸ってる人がひとりもいなかったこと。びっくりしましたよ。町屋だったら絶対に禁煙って、ちゃんと表示してない限りプッカプカだし。それと、駅前のあんな感じっていうのは、下町のゴミゴミしたようなのとは違って、こう、よそよそしい感じ。下町はもう家と家がくっついている。そこからすると馴染めないんですけど、まあ住宅街の方は、住宅街はどこ行っても住宅なんで同じなんだけども、でも美しが丘はちゃんと庭があって…。僕ら建築家が、一級建築士取る時や、都市計画の勉強する時にしか出てこないような、ラドバーン方式とかクルドサックとか、文字でしか知らなかったものが、本当にあるんだぁ!っていうのはけっこう驚きでした。そういうものが実在していて、そこに住んでる人が日本にいる、っていう。あ、これか~!みたいな驚き。そういうの、ありましたよね。でもそんな街も少し老朽化してきている。 
 僕が普段写真撮るときに、遊歩道に雑草が生えてるのとかは、好ましいものなんですよね。雑草生えててかっこいいな、みたいな感じで。雑草は取らなきゃいけないとか、道がでこぼこしてたら歩きにくいし、車いすの人にとっては大変っていうのは、やっぱり住んでる人の気持ちにならないと分からない。遊歩道がこんなに立派でこんなに広いとか、すごく環境整ってて、なんて贅沢!って、僕も思っていたけれども、住んでる人と付き合ってくと、確かにそれは、他人が見ていると気楽だけど、住人にとっては一大事なんだなっていうのがだんだん分かるようになってきた。
 海外とかって、どの道にも名前がついてるじゃないですか。日本って海外と違って、道の作られ方が違う。海外みたいに道からできるんじゃなくて、人が住んで道が後からできるっていうパターン。でも、道に名前をつけると、それまでなんとなく、こう、ぼんやりしてたものが、急に意識にポンと上がってくるようになる。100段階段も、まずその名前が認識されて、じゃあそれをなんかしようというふうになったんですよね。それで住民が、「100段階段プロジェクト」みたいな、階段を標高のスケールに見立てて、で、この場所(段)が街のある地点の標高と同じ、とか、こことあそこを繋げるっていうアイディアが、しかもアートみたいな形で街の中から自然発生的に出てきて、そしてそれをやれてしまう、っていうことにはびっくりしましたよね。それはこれまで何年も、いろんな若いアーティストの人たちが、街に入り込んでいろいろやってきた結果なのかな。そういうものの考え方っていうのが住民に根付いてるっていうか、当然のものになってるからなんでしょうね。誰かがひとりで言いだしたわけじゃなくて、なんかいろんな人がいろんなことを言って出来上がったってのは、僕は本当にすごいことだと思うんですよね。
[※]トマソン:超芸術トマソンとは、赤瀬川原平らの発見による芸術上の概念。不動産に付属し、まるで展示するかのように美しく保存されている無用の長物。 参照:https://ja.wikipedia.org/wiki/トマソン

伊藤嘉朗 2

インタビュー:2019年 夏

このおはなしは2019年No.006号に収録されています。冊子をご希望のかたはご連絡ください。冊子は無料、送料180円でお送りします(5冊まで送料は同じ)。「街のはなし」プロジェクトを、スキやサポート,snsのフォローなどで応援していただけましたら大変励みになります!どうぞよろしくお願いします。

企画・文: 谷山恭子
写真:藤井本子

編集・校正: 伏見学・街のはなし実行委員会

発刊:街のはなし実行委員会

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