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地域資本主義に共感! 『まちのコイン』を通じて支援型開発を

まちのコイン・導入事例:小田急電鉄株式会社インタビュー

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お話を伺ったのは......(写真左から)
小田急電鉄株式会社 エリア事業創造部
向井隆昭さん、立山仁章さん、佐野健太さん

地域のプレイヤーや個性を活かすまちづくりがしたい

ーー2021年7月から導入がスタートしたばかりのシモキタのコイン『キッタ』ですが、導入のきっかけを教えてください。

向井
小田急では現在、東北沢・下北沢・世田谷代田の3駅間(シモキタエリア)で、『下北線路街』という線路跡地の開発プロジェクトを進めています。不動産開発のハード面だけでなく、ソフト面でも何かまちづくりの施策ができないかと考えていたことが、背景になります。

『下北線路街』プロジェクトのスタンスは「支援型開発」。不動産開発というとディベロッパーや開発側が主体になって作っていくイメージですが、我々は支援する立ち位置で、あくまでも主体は住民や地域のプレイヤーだと考えました。「支援型開発」を通してシモキタの魅力を高めていきたいと思い、地域の活動やコミュニティをサポートする仕組みを探していました。『まちのコイン』は、まさに探していたものだったんです。

ーー『まちのコイン』のどんなところが決め手だったのですか。

向井
『まちのコイン』のサービスは、「人と人をつなげる、人と店をつなげるツール」で、コミュニティ作りのきっかけや後押しになる。主体もまちの人々だというところが、我々の掲げた「支援型開発」のコンセプトと同じだったことが決め手です。
さらに、『まちのコイン』はアプリサービスなので地域外の人も使える全国展開のプラットフォームですが、地域ごとにカスタマイズできますよね。本プロジェクトでは「個性のあるまちづくり」も大事にしていたので、地域の個性を引き出してくれる部分も非常に相性がいいのではと感じました。

立山
私は実際に小田原のコイン『おだちん』を体験させてもらったのですが、『まちのコイン』は関係人口の創出に効果的だと思いました。小田原は小田急の駅もあるので訪れることもありますが、普段はお会いすることがないような地域住民や商店さんと話せる機会があり面白かった。『まちのコイン』がコミュニケーションを加速させることを実感しましたね。

佐野
まちの人が、必ずしもまちの個性とイコールではない。例えば、シモキタだからといって、全員がサブカルチャーに興味があるとは限らないですよね。でも、アプリをきっかけにして、まちの個性に気軽に触れられる機会が増えてくる。まちとの関係を深めていく中で、大事なツールになっていくと思いました。

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ーー『キッタ』導入にかける想いを伺えますか。

向井
シモキタのように、地域の中にカルチャーが根付いていて、身近に触れ合って暮らすチャンスのある場所はあまり無い。『キッタ』のテーマのひとつが、音楽・演劇などのカルチャーの応援なんです。もっと音楽や演劇や本、知らない文化に触れてみるきっかけを作れたらいいな、と考えていました。

また、この1年、コロナで自宅圏内の生活が見直されていますよね。小田急は、以前からITの発達やリモートワークの普及で移動自体が減少するだろうと危機感を覚えていました。「自宅付近の暮らしをより豊かにする」というミッションには早々から注目していて、今回のプロジェクトの特徴のひとつになっています。

わざわざ訪れたくなる名物スポットも誕生!

ーー印象に残ったエピソードがあれば、ぜひシェアしてください。

向井
嬉しかったエピソードが、『ヤマザキYショップ 代田サンカツ店』さんとの会話です。
『キッタ』を導入してから、他のスポットの店長さんに会いに行ったそうなんです。「もともと存在は知っていたけれど会話することはなかった。でも『まちのコイン』がきっかけで、仲良くなれた」と聞きました。『サンカツ』さんは代田寄りエリアにあり、近いにも関わらず下北沢や東北沢のことをよく知らなかったそうです。
スポット同士のつながりは、サービスを受ける側だけじゃなくてお店にとっても豊かなことなので、意識的に広めたいですね。

佐野
『サンカツ』さんは、来店促進やコミュニケーションのためにユニークな体験チケットを積極的に出していますよね。
例えば、コロナ禍で、家に閉じこもりがちなひとり暮らしの人をサポートできるような体験チケット。1日の終わりに少しでも人と話す機会になったら、という思いが込められているそうです。

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昭和4年創業、まちの交差点として愛されるお店では、代田の歴史を教えてもらえたり、BGMの昭和歌謡曲を当てたらコインがもらえる体験チケットも

向井
私自身「こんなに面白い人が代田にいるんだったら、ここでひとり暮らしをしていても不安じゃないな」と思うくらいです。思わず暮らしてみたくなるところまで、地域の魅力を感じてもらえるかもしれません。

立山
東北沢の斎藤さんのお話も印象的ですね。コミュニティ拠点『北沢おせっかいクラブ』をはじめ、個人的に子ども食堂の運営、子どもを機軸にした取り組みを熱心にされていて、『キッタ』を積極的にママコミュニティに広げてくれました。

コロナ禍で一時保育的な施設が閉鎖になったり、乳幼児のお母さんが出かけられる場が減ってしまったそうなんです。斎藤さんが運営するスポットに毎日チェックインすると『キッタ』を貯められる体験チケットがあったのですが、「いつの間にか習慣化して、毎日来てくれる乳幼児のお母さんもいる」と聞きました。『キッタ』を介して、気軽に立ち寄れる場所ができ、外に出るきっかけ、人と関わるきっかけを生み出せたことは嬉しいですね。

佐野
あと、ライブスタジオの『近松』さんは「様々な音楽に触れる機会を、学生さんに提供したい」と意気込みを語ってくれました。
まちの人と会話する中で、多くの人がまちづくりに関心があって、地域のサポートに熱心だと感じました。皆さんの思いが、『キッタ』でもっともっと広がっていくといいな、と期待しています。

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シモキタのまちで育む、新しい社会軸

ーー『まちのコイン』の導入でカヤックと協業した感想を教えてください。

向井
以前、面白い企業にインタビューする小田急の社内企画があり、そこがカヤックさんとの最初の接点でした。「ゲーム会社であり、地域ともコミットしているってどういうことだろう?」という興味があったんです。カヤックさんのまちづくりや、地方創生事業について調べる中で「地域資本主義」という理念を知り、とても共感しました。実は、シモキタのまちづくりは「地域資本主義」の影響を結構受けているんですよね。
あと、ゲームを作っているからこそ人を楽しませることが上手いな、という印象。

佐野
私もカヤックさんはゲームの会社というイメージが強かったので、プロジェクトに参加した時は驚きと期待がありました。人を楽しませることを生業としているからこそ、『まちのコイン』はただの地域通貨じゃなくて「コミュニティ通貨」なんですよね。人がつながるサービスとしての楽しさ、面白さの理由なんだと思います。

立山
ゲーム作りの知見も持っていらっしゃるため、アプリを含めて「使いやすいさ」「体験価値」がすごく実感しやすいですよね。

ーー最後に『まちのコイン』とは、ひとことで言うと...?

向井
期待も込めてですが、「これからの社会のもうひとつの軸になるもの」。人間のあるべき姿や幸せとは何か。何のために生きるのか、働くのかを考えた時に、お金だけじゃない軸って重要だなと思うんです。

『まちのコイン』がコロナ禍の中でも流通できているのは、「お金ではない価値の交換」や「つながりを深めること」で幸福度が高まっているからではないでしょうか。まちにいる人・関わる人が主体的に行動して、幸せな状態にいることが、『キッタ』の目指すべきゴールだと思っています。

立山
『まちのコイン』とは、「自分だけの価値、それぞれの価値を換算できるもの」ですね。円という法定通貨は、すでに価値換算がある程度決まっている。『まちのコイン』は自分なりの価値を換算して、流通させていく面白い取り組みだと思います。

初めは、資本主義とどう解離しているのかどうかよく分かりませんでした。自分の中で解像度が上がっていなくて、早く導入を広めるためには法定通貨みたいな扱い方になっちゃうのかな、と。カヤックさんやスポットさんと会話していく内に、法定通貨とは違った価値軸があることが分かりました。

佐野
私はひとことで言うと「自助共助」かな、と思いました。『まちのコイン』が目指す豊かなコミュニティは、地域の理想的な姿。高齢化社会にも重要な共助の関係を作りつつ、新しくまちに入ってきた人もコミットしやすい自助環境を作ることができる。単にまちづくりだけじゃなくて、防災にも役立つ都市計画的な話にまでつなげられるかもしれません。シモキタでの導入は始まったばかり、今後の展開が今から楽しみです。

取材・文 二木薫

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