見出し画像

雇用契約書と就業規則、どちらが優先?

前回まで労働審判手続申立書・証拠説明書の作成方法やその内容について解説してきました。次は、申立人(ないし原告)の労働審判手続申立書(ないし訴状)を受けて相手方(ないし被告)が作成・提出する答弁書について解説していきたいと思います。

ですがその前に、私自身の本人訴訟から学んだ知見をいくつか紹介したいと思います。今回のnoteは「雇用契約書と就業規則」についてです。

雇用契約書とは、雇主(会社)と従業員の二者間で、賃金や勤務時間などの労働条件を明確にするために締結する契約書です。通常、雇用契約書は2部作成され、二者それぞれが2部ともに署名捺印、二者それぞれが1部づつ保管します。証拠説明書の解説のなかで重要な書証としての「雇用契約書」に言及していますので、第32回note第35回noteもご確認ください。

就業規則とは、趣旨は雇用契約書と同じで、賃金や勤務時間など労働条件を事業場毎に定めたものです。通常、冊子になっていると思います。雇用契約書では、雇主(会社)と一人ひとりの従業員の二者間で労働条件が規定されます。しかし、何千人・何万人という従業員がいる大企業では、一人ひとり雇用契約書を作成・締結していたのではとても非効率ですし、実際不可能でしょう。そこで、画一的に労務マネジメントをするためにその事業場の 従業員に共通し一般性を持つ労働条件や服務規律などのルールを「就業規則」という形で定めておくのです。厚生労働省がモデル就業規則を作成していますので、興味のある方はみてみてください。

常時10人以上の従業員を使用する雇主(会社)は、労働基準法第89条の規定により、就業規則を作成する義務所轄の労働基準監督署長に届け出る義務を負っています。就業規則を変更する場合も、労基署に届け出なければなりません。さらに、同法第106条には就業規則の周知義務も定められています。

実は、私の就労期間中、私の雇主(会社)は就業規則を周知していなかっただけでなく、そこの取締役は私が要請した就業規則の閲覧を堂々と拒否しています。就業規則に関するルールを知らなかったのか、確信犯的に拒否したのかはわかりませんが、どちらにしても全く困ったものです。しかし、そのような周知がされていない就業規則には、最高裁判所の判例から、法的拘束力がありません。そうなると、イザというときに困るのは雇主(会社)自身なのです。

では、雇用契約書と就業規則のどちらの規定が優先されるのでしょうか? よくある雇主の主張に

■ 会社の決まりはすべて就業規則に記載してあるのだから、個別の雇用契約書は関係なく、従業員は就業規則に従うべき。
■ 従業員にとって就業規則よりも不利な内容が個別の雇用契約書にあえて規定されているのだから、従業員は雇用契約書に従わなければならない。
■ 就業規則を遵守するという誓約書に署名捺印したのだから、たとえ個別の雇用契約書の内容の方が従業員に有利であっても関係ない。

などというものがあります。しかし、これらは、すべて、法的に認められません。 

従業員にとって雇用契約書が就業規則よりも有利な場合、雇用契約書に従えばよいです。一方、従業員にとって就業規則が雇用契約書よりも有利な場合、雇主(会社)は就業規則に従わなければなりません

労働契約法第12条には、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」と定められています。つまり、雇用契約書で定められた労働条件が就業規則で定められた労働条件よりも低い場合、その雇用契約書の部分は無効、その部分に定められた条件は就業規則で定められた条件レベルまで強制的に引き上げられるのです。

次回は、従業員が立て替えた経費を会社が払ってくれない場合、本人訴訟ではどのように対処していくかについて述べたいと思います。今回もここまでお読みいただきありがとうございました。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?