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本人訴訟で未払い残業代を請求する(37)-証拠説明書の書き方6【タイムカード】

今回も前回のnoteに続いてタイムカードについてです。

労働審判や民事訴訟で未払い残業代の存在を争う場合、申立人(原告)が書証としてタイムカードを提出しても、相手方(被告)がその信頼性に疑義を投げかけて、残業時間の立証がされていないと主張することがあります。

未払い残業代を請求される相手方(被告)の反論としてよくあるのが、「申立人(原告)は管理監督者であるから、残業代は支払われない」(第27回note参照)という主位的な主張と同時に、「仮に申立人(原告)が管理監督者ではなかったとしても、書証として提出されたタイムカードは申立人(原告)の残業時間を立証しているわけではない」とする予備的な主張です。

例えば、朝にオフィスに出社してすぐにタイムカードを打刻した後にデスクでゆったりと朝食をとる習慣があった、業務を終えてPC電源を切った後に同僚と業務に関係ない雑談をしばらくしてからタイムカードを打刻することが頻繁だった、勤務時間中に仕事とは関係のないネットサイトを頻繁に閲覧していた、といった具合。つまり、タイムカードに打刻された始業時間から終業時間までを申立人(原告)の勤務時間と認定することはできないということです。

この”主位的主張+予備的主張”は、反論に際して管理監督者性のみに重点を置くのはリスクが高いと考えての相手方(被告)の方策で、管理監督者性が認められなかった場合に備えて、勤務時間や残業時間をできるだけ短くしておこうとする試みです。

対して、申立人(原告)は、第27回noteの通り管理監督者性を否定するとともに、客観的にみて勤務時間とは従業員が雇主の指揮命令下ないし管理下に置かれる時間に他ならず、タイムカードに記録された時間こそが勤務時間であると主張することができます。実際、裁判所は、タイムカードに打刻された時間のとおりに仕事をしていたと推測し、タイムカードに従って残業代を認めることが通例となっているようです。そもそも、従業員の勤務時間、それに応じた仕事の進捗や課題、見通しなどをマネジメントしているのが雇主であるはず。つまり、従業員が勝手に残業をして、その結果タイムカード上で所定就業時間を超えた勤務時間になっているのだから、雇主としては残業代は支払わないなどといった無責任な論法は通用しないということです。

就業規則などに業務をはじめる前の準備を労働時間に含めないと定められていることもありますが、労働基準法第32条の言う「労働時間」を左右するものではありません。先に述べたとおり、客観的にみてその準備作業が雇主の指揮命令下ないし管理下に置かれてのものであるなら、それは勤務時間ということ。準備作業や後片付けは、事業所内で行うことが雇主によって義務付けられている場合や現実的に不可欠である場合には、原則として雇主の指揮命令下にあると評価され労働基準法上の「労働時間」に相当します。また、従業員が具体的な作業を行っていなくても、仮眠時間など業務が発生した場合に備えて待機している時間も使用者の指揮命令下に置かれたものと評価され、労働基準法上の「労働時間」に当たります。

ただし、タイムカードがシステムによる打刻ではなく申立人(原告)の手書きである場合、そして手書きの部分が虚偽であることを相手方(被告)が立証できた場合、また申立人(原告)が勤務時間に業務とは全く関係のないことを行っていたことを相手方(被告)が立証できた場合には、タイムカードに従って勤務時間や残業時間を推認してもらうことは難しいケースもあります(大阪高裁 平成19年(ネ)第1493号 賃金請求控訴事件 参照)。

実際、私が未払い残業代を請求した民事訴訟では、相手方(被告)は、主位的に私の管理監督者性を主張する(=「私は管理監督者だから、私には残業代を支払う必要はない」という主張)と同時に、私のインターネット閲覧記録(A3で数百ページの分量)を書証として提出し、予備的に、仮に「私が管理監督者ではなかった」としても、私が勤務時間中に仕事とは関係のないインターネットサイトを閲覧していたので、タイムカードに打刻された勤務時間をそのまま信用することはできないと主張しています(この顛末は後のnoteで解説します)。

今回もここまでお読みいただきありがとうございました。次回は、申立人(原告)がタイムカードを入手することができない場合について解説します。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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