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本人訴訟で未払い残業代を請求する(57)-本人訴訟で労働審判を申立てる前に問い直すべき5つのポイント

今回のnoteは、皆さまが本人訴訟で労働審判を申立てる前にもう一度だけ自分自身へ問い直していただきたい5つのポイントを紹介したいと思います。

一つ目は、裁判所を利用することが本当に適切かということです。労働審判とはいえ裁判所を利用して「裁判沙汰」にするわけですから、やはり日常的なことではありません。時間も費用も稼働もかかります。精神的な負荷もあるでしょう。仮に相手方が過去の雇主だとしても、元同僚との人間関係が損なわれるかもしれません。自分の権利を放棄することなく、裁判所を利用しないで解決する方策(任意協議、ADR、労働組合等など)はないか、もう一度考えてみてください。

二つ目は、本人訴訟のかたちをとることが適切かということです。本人訴訟であれば、弁護士費用が節約できます。それは大きなメリットです。しかし、その分デメリットもあります。メリットデメリットをみずからの争いに照らし合わせて、懐事情、時間の余裕、能力などと相談しつつ、事実関係とそれを裏付ける証拠の存在から「勝ち筋」であるか「負け筋」であるかを慎重に分析したうえで、本人訴訟を選択するか否か判断してください。本人訴訟といっても、すべて自分で行うパターンもあれば、弁護士や司法書士に後方支援してもらったり書面だけを作成してもらったりする方法もあります。どのような方法が自分に合っているかを考えてみてください。

三つ目は、労働審判を選択することが適切かということです。労働トラブルの解決に労働審判を利用するのか、それとも民事訴訟を利用するのか。それは、トラブル解決に当たって何を重視するかによります。お金か、時間か、それとも解決自体を重視するのか。労働審判では、早期解決が重視されるかわりに、金額的にはある程度の譲歩が求められます。また、労働審判と民事訴訟の制度的な違いも理解しておく必要があるでしょう。

四つ目は、証拠を準備することができるかということです。労働審判や民事訴訟の場では、たとえ主張する事実が真実であっても、証拠がなければそれは基本的には事実でも真実でもありません。そもそも、真実は見方によって見え方が変わるものですし、申立人や原告にとっての真実と相手方や被告にとっての真実は異なってくるでしょう。未払い残業代にかかわるトラブルであれば、雇用契約書・タイムカードなどの勤怠記録・給与支給明細書の証拠3点セットは必須です。労働トラブルの場合、タイムカードをはじめ証拠となりそうなものは、通常雇主側に偏る傾向があるでしょう。その意味で、どのようにして証拠を入手・準備するかが最初の関門です。

そして、五つ目は、労働審判に際しての戦略はあるかということです。まず、法的な状況を見極めること。証拠による裏付け、事実関係が立証できて、それによって法的主張ができるか。これがいかに精緻であるかによって「勝ち筋」かどうかがわかってくると思います。そして、請求の中身で引けないところ、引けるところを分析、譲歩ラインを設定すること又は和解方針を立てること。費用計画も作成できればよいでしょう。申立費用の実費、交通費、印刷費、通信費、みずからの稼働も費用換算してみるとよいと思います。譲歩ラインの設定にも役立つと思います。

以上の5つのポイントです。これらを丁寧に自分自身に問い直したうえで、本人訴訟での労働審判にのぞんでいただきたいと思います。皆さまの健闘を祈ります。 次回noteに続く。

街中利公

本コラムは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: コラムの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本コラムで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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