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【本人訴訟シリーズ】本人訴訟で未払い残業代を請求する

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未払い残業代問題を取り上げます。自分だけの力で労働審判を起こしてブラック企業から未払い残業代を取り戻す!そのための実務的なノウハウや労働審判手続申立書など書面の作成について解説し…
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#地方裁判所

全プロセスを完全解説!:本人訴訟で労働審判を申立てて未払い残業代を取り戻す【労働審判手続申立書・証拠説明書テンプレート付き】

これまで「労働審判手続申立書」や「証拠説明書」の書き方などについて解説してきましたが、ここで労働審判の申立て「残業代請求労働審判事件」の全プロセスを、一つのnote記事として整理したいと思います。元従業員のあなたが元雇主の会社に対して未払い残業代を請求するにあたって、代理人弁護士に依頼することなく本人訴訟を検討する場合は、必ず役に立つと思います。 なお、本note記事は、著書から労働審判の申立てと未払い残業代の請求に関するエッセンスを抜き出して、これまで書いたnote記事と

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大切な「論理的な思考プロセス」

今回のnoteでは、少々理屈っぽい話をしたいと思います。 このnoteシリーズでは「労働審判手続申立書」など労働審判を申立てる時の書面の作成について解説してきました。皆さまの本人訴訟では、実務的には、それらを参考にしながら書面の作成をしていただきたいと思います。 もっとも、労働審判や民事訴訟での書面作成で大切なことは、論理的な思考プロセスに他なりません。「論理」とは、私なりに言えば、思考のつながりです。みずからの主張の理由となる事実を抽出して、その事実の裏付けをするという

本人訴訟で未払い残業代を請求する(57)-本人訴訟で労働審判を申立てる前に問い直すべき5つのポイント

今回のnoteは、皆さまが本人訴訟で労働審判を申立てる前にもう一度だけ自分自身へ問い直していただきたい5つのポイントを紹介したいと思います。 一つ目は、裁判所を利用することが本当に適切かということです。労働審判とはいえ裁判所を利用して「裁判沙汰」にするわけですから、やはり日常的なことではありません。時間も費用も稼働もかかります。精神的な負荷もあるでしょう。仮に相手方が過去の雇主だとしても、元同僚との人間関係が損なわれるかもしれません。自分の権利を放棄することなく、裁判所を利

証拠説明書の書き方~その5【タイムカード】~

今回のnoteでは、最強の証拠3点セットの一角、タイムカードについて解説していきます。 「タイムカード」という言い方は少し時代遅れかもしれません。昨今は、わざわざ打刻しなければならない煩わしさを解消する、また勤怠を総合的に管理できるようなソフトウェアも存在します。その本質は、従業員の始業時間と終業時間が分単位で明確に記された勤怠記録ということです。 労働基準法第109条で「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間

証拠説明書の書き方~その4【雇用契約書】~

第32回のnoteでは、未払い残業代を請求するに当たって、証拠(書証)としての雇用契約書の役割をいくつか紹介しました。今回も雇用契約書の説明を続けたいと思います。 ここで大切なおさらいですが、残業代を導く計算式は「割増賃金(残業代)=基礎賃金×割増率×所定外労働時間」でした(第20回note参照)。割増率は労働基準法の1.25に従うとして、未払い残業代として決まった金額を請求するためには、基礎賃金と所定外労働時間を立証する必要があるわけです。 雇用契約書が申立人の「労働者

証拠説明書の書き方~その3【雇用契約書】~

前回のnoteで述べた通り、「雇用契約書」と「タイムカード」と「給与支給明細書」は未払い残業代の請求に際しての最強の証拠3点セットです。今回のnoteでは、その中でも最も重要な書証とも言える「雇用契約書」を取り上げたいと思います。 雇用契約書とは、労働者と雇主との間で締結される、労働条件にかかわる契約書のことです。署名捺印がされているはずです。 雇用契約を締結した労働者は、その会社の従業員ということになります。労働審判や民事訴訟の書面では「社員」という言葉はあまり見かけず

証拠説明書の書き方~その2~

証拠説明書にリストアップされる書証は、当然、労働審判手続申立書での記述と連動します。では、その申立書のどのような事実の記述に対して書証を付ければよいのでしょうか。あるいは、どのような事実について立証が必要なのでしょうか。 まず、民事訴訟法第179条によれば、「当事者が自白した事実」と「顕著な事実」は「証明することを要しない事実」とされています。前者の民事事件で言う「自白」とは、刑事事件のそれとは意味合いが異なり、申立人/原告ないし相手方/被告がみずからに不利となる事実を認め

証拠説明書の書き方~その1~

労働審判の申立てに際して作成・提出する書面については、第12回のコラムで説明しました。そのうち、まず「労働審判手続申立書」の書き方について、第14回、第15回、第16回、第19回、第20回、第21回、第23回、第24回のコラムにて、私の申立書の事例を書き出しながら、詳しく解説しました。また、労働審判手続申立書のテンプレートを(有料ではありますが)第25回のコラムで提示させていただきました。 今回から数回にわたっては、証拠説明書の書き方について解説していきたいと思います。

「固定残業代制」で残業代をごまかされるな!

前回のコラムでは、会社(雇い主)による「裁量労働制」の悪用に対抗するポイントについて解説しました。今回は、やはり、悪用されてしまえば、未払い残業代が発生する恐れのある「固定残業代制」について述べたいと思います。 「固定残業代」とは、読んで字の通り、あらかじめ固定額として設定された残業代です。労働基準法上の規定がある「裁量労働制」とはちがって、「固定残業代制」には法律上の定めがありません。なので、固定残業代制は、法律に基づく制度ではなく、雇用契約ないし就業規則や賃金規程による

「裁量労働制」で残業代をごまかされるな!

未払い残業代を請求された会社(雇い主)が労働審判や民事訴訟で「あなたとは労働契約を結んでいるわけではないので、あなたは従業員じゃない」、「あなたは課長なので、あなたは管理監督者だ」と主張してくることがあります。ともに、未払い残業代を請求された会社がその支払いを免れるための戦術。それぞれの反論ポイントは、前々回のコラムでは「労働者性」、前回のコラムでは「管理監督者性」について解説しましたので、そちらを参考にしてください。 今回と次回のコラムでは、やはり残業代の支払を避けるため

「管理者には残業代は出ない」にだまされるな!

今回のコラムで言いたいこと。それは、「課長や部長など管理職には残業代は支給されない」は必ずしも正しくはないってことです。 労働基準法第41条には「労働時間等に関する規定の適用除外」が定められています。その同条2号に基づけば、管理監督者や機密の事項を取り扱う従業員であれば、残業をしても普通残業については割増賃金を支給する必要がありません。これを「管理監督者性」と言います。確かに、労働者が管理監督者であるならば、普通残業代は支給されないということになるのです。  しかし、だか

「労働者」じゃなければ残業代は支給されない!

労働審判手続申立書の次は証拠説明書の解説に入りたいと思いますが、切りが良いので、ここで、いくつか大切な用語について説明をしておきたいと思います。今回は「労働者性」についてです。 「労働者性」とは、「法的に労働者として捉えられるための適格性」くらいの意味に考えてください。 私は、このコラムシリーズの第一回で、「労働者なら、法律で定められた一日の労働時間は8時間。8時間を超えて仕事をすると、それは時間外労働になります。時間外労働をすると、労働基準法にしたがって割増賃金(残業代

労働審判手続申立書の書き方~その8~

前回のnoteをもって労働審判手続申立書の本文の説明を終えました。「当事者」「請求の価額」「第一 申立ての趣旨」「第二 申立ての理由」それぞれの箇所について、私が実際に使用した申立書をもとに説明しました。今回は、申立書の一部としてみなされる「証拠方法」「附属書類」「別紙」について解説していきます。 やはり、私の申立書から該当箇所を抜き出します。 ================================== 証拠方法 甲第1号証  雇用契約書 甲第2号証  給与支給明

労働審判手続申立書の書き方~その7~

第21回のnoteまでに、労働審判手続申立書の主要部分についての説明は終わりました。第16回のコラムで「第2 申立ての理由」の構成を示していますが、残りは「5.付加金の請求」と「6.申立てに至る経緯・概要」の箇所です。 まず、私が使用した申立書の当該箇所を書き出します。 ================================== 5.付加金の請求 相手方は残業代の支払い義務を履行していないことから労働基準法第37条1項を遵守しておらず、このことは同法第114条の要