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大切な「論理的な思考プロセス」

今回のnoteでは、少々理屈っぽい話をしたいと思います。

このnoteシリーズでは「労働審判手続申立書」など労働審判を申立てる時の書面の作成について解説してきました。皆さまの本人訴訟では、実務的には、それらを参考にしながら書面の作成をしていただきたいと思います。

もっとも、労働審判や民事訴訟での書面作成で大切なことは、論理的な思考プロセスに他なりません。「論理」とは、私なりに言えば、思考のつながりです。みずからの主張の理由となる事実を抽出して、その事実の裏付けをするという、ちゃんとつながった思考のプロセスをとっていくことが大切なのです。

シンプルな例として、Aさんが「先月勤務分の未払い残業代2万5000円を支払ってください」という主張をしているとします。つまり、Aさんの主張は、

■ 先月の勤務で残業をした。
■ その残業に対する割増賃金の合計は2万5000円である。
■ その2万5000円はまだ支払われていない。
■ だから、2万5000円の支払いを求める。

です。そして、これらの主張をするために抽出すべき事実・前提、または請求の根拠は次のとおりです。

■ 先月の勤務で残業をしたという事実 
■ 残業代を算出するための基礎賃金、法定割増率、残業時間 
■ 残業代が支払われていないという事実 
■ 残業代(割増賃金)は支払われなければならないという法律の条文

これらに基づいて、Aさんは2万5000円の支払いを求めるわけです。そして、これら事実を裏付ける証拠を提示する必要があります。次のとおりです。

■ タイムカード
■ 雇用契約書
■ 給与支給明細書

これら3点を特に重要な証拠と述べました。

タイムカードからは、勤務時間が分単位でわかります。雇用契約書に規定された所定労働時間と照らし合わせれば、所定外労働時間、つまり残業時間が算定されます。雇用契約書には、所定労働時間、休日、給与の制度・体系、内訳、金額などが規定されています。これらから、給与の基礎額(給与の範囲)、および1時間当たりの労働単価である基礎賃金が算定されます。そして、給与支給明細書からは、支給金額の内訳、控除された項目と金額などがわかります。支給金額の内訳は基本給、住宅手当、家族手当など。控除された項目は雇用保険料や所得税の源泉徴収といったものです。

もちろん、主張や事実は法的に意味のあるものでなければなりません。少し極端な例ですが、「朝の出社時に社長と顔をあわせたけれど、社長が挨拶をしてくれなかったから気分を害した」と主張しても、たとえ社長が挨拶をしなかったこと、それによって気分を害したことが事実であっても、それらは法的にはまったく意味がない主張や事実です(ハラスメントなどの存在が争点になる場合を除く)。残業代に関する主張や事実が法的に意味があるのは、労働基準法に定めがあるからなのです。

「裏付け→事実→主張」の思考プロセス。これを強く意識してください。この一連の思考の後は裁判所の仕事です。裁判官は、原告や申立人の思考プロセスを審理します。「裏付け→事実」から事実を認定するか否かを決め、その上で「事実→主張」は法的に妥当か否かを判示するわけです。

ですので、原告や申立人となる皆さまは、とにかく、この思考プロセスに集中してください。法律知識はあまり必要とされません。カギを握るのは証拠です。証拠、証拠、証拠! 証拠がすべてを決めるのです。たとえ原告や申立人が述べる事実が真実であるとしても、裁判や労働審判では証拠をもとに立証されなければ、基本的にそれは事実でも真実でもありません。そのことを十分に意識していただければと思います。

さて、思考プロセスは、思考だけで終わっては裁判や労働審判では何の意味もありません。それをしっかりと文章化、書面化することが重要です。

あと、皆さまが本人訴訟をするとして、勘違いすべきでないのは、本当の敵は被告や相手方ではないということです。本来注意を払うべきは、訴訟なら裁判官、労働審判であれば労働審判委員会。仮にいくら相手の弁護士を言い負かしたとしても、実利は何もない。自己満足にしか過ぎません。自己満足したいだけならそれでいいかもしれません。しかし、本当に大事なことは、裁判官や労働審判委員会にわかってもらうこと。本当の敵は、相手に付く弁護士じゃなくて、裁判所です。 論理的な思考プロセスを以っていかに裁判所を納得させることができるか、それが大切なのです。

次回をお楽しみに。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。 

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