見出し画像

第6章 未来デザイン

 「machidas(マチダス)まちをつくるひとをつくる」では、まちづくりを着実に進めるための考え方の手順「未来デザイン」を解説しています。未来からの視点でこれから何をすべきか考えていく方法は、ここ数年よく知られるようになりました。しかし、まちづくりの現場では少々迷走することもあり。
  第6章はまさにマチダス〝ぷらす〟。未来デザインをより深く理解し、まちづくりを前に進めるためのポイントをお話しします。

第1章全6話(No.1〜6)が¥200で、
第2章全3話(No.7〜9)が¥100で、
第3章全6話(No.10〜15)が¥200で、
第4章全6話(No.16〜21)が¥200で
第5章全6話(No.22〜27)が¥200でお読みいただけます↓↓​

28.未来から今を見つめる目を持とう

 NPO法人まちづくり学校は、初代校長であった小疇さんの事務所であった一軒家をお借りしてそこに事務局を置かせていただいているのですが、私たちは3年ほど前からDIYを中心とした改造計画を少しずつ進めています。

 発端は内部をみんなで事務所の大掃除をしたときに、家自体も経年劣化が進んでいる箇所があるため、ここは手作りで直せるところは直していこうということになったのです。外構の草取りに始まって外壁の塗装剥がしや縁側の修復等を行ったのですが、作業はそこでストップしてしまいました。そりゃあ当然ですよね。今回行う改装の完成イメージがメンバー間で共有されていなかったため、次にどういった作業をしていったらいいかが浮かばなかったのです。

 そこで私はメンバーに「どんな感じになればいいと思う?」と聞くと、「会員の皆さんや、一般の人も来たくなるカフェのような雰囲気をもった事務所にしたい」という答えがいくつも返ってきました。ならば!とばかり半分楽しみながら「こんな風になればいいな〜」という実現可能な未来像を描き、現況の事務局の写真を基にフォトシミュレーションをして、みんなにイメージを共有してもらいました。

図1

理想の事務局

(写真:上が現在、下が実現可能な改装イメージ)

 もちろんこれはあくまでイメージであって、実際は資金調達の方法なども平行して進めながら行う必要がありますので、ここまでやれるかどうかはわかりません。しかしこの未来像があることによって、現状のいいところ悪いところが見えてきましたし、今、優先して何をすべきかということも全員が理解できるようになりました。

 これと同じことがまちづくりにも当てはまります。こんなまちになったらいいなという具体的な未来像を描くことをせずに、それぞれが好き勝手なことを始めてはまとまるものもまとまりません。まず最初に関わる人たちの思いを聞き、それを基にこんなまちになればいいなという具体的な姿を示し、そこから現状を見つめ直すことによって、それまで見えていなかったことを見えるようにすることが大事なのです。(大滝 聡)

29.課題や方法論から入るな!まずは理念を最初に考えろ

 何かコトを起こそうとする場合、当事者・関係者同士での話し合いの場が設けられますが、どうしても問題点や方法論ばかりが語られる傾向が強く、まとまらない、決まらない、議論が堂々巡りする・・・という事態が頻発します。なぜこんなことが起きてしまうのでしょうか。

 目的という単語は、辞書では次のように記述されています。

 実現しようとしてめざす事柄。行動のねらい。めあて。
(出典:デジタル大辞泉)

 この説明文の内容をよ〜く吟味すると、「実現しようとしてめざす事柄」と「行動のねらい」は、似ているようで違います。特に後者は、「行動のねらい=意図」という意味です。冒頭に記した事態は、「目的=行動のねらい」と捉えた場合に、よく発生したりします。

 まちづくりにおける目的とは、「実現しようとしてめざす事柄」です。これを肝に銘じてください。

 そしてもう一つ大切なポイントがあります。それは、目的に当事者・関係者の「魂を込める」というプロセスが不可欠であるということです。

 一部の人たちだけで考え作文された目的では、心の底から共感し、当事者としてコトに臨もうという姿勢がなかなか醸成されません。究極的にやりたいこと・実現したいことは何なのか?これを当事者・関係者で議論・熟考し、トコトン掘り下げる。この過程を経ることで、当事者・関係者の魂が込められた究極の目的、「理念」が生まれます。

 重要なのは、これを最初にやることです。一見、回りくどいように思われるかもしれませんが、多様な考え、立場の人々が、同じ方向を向いて取り組みを始めようとする場合、最初にお互いの目線を合わせ、共通認識の醸成は不可欠です。ここを怠るから、冒頭のような事態が頻発するのです。

 たかが目的、と思うかもしれませんが、目的はコトを起こす際の基礎です。トコトン掘り下げ、魂を込めた究極の目的「理念」は、揺るぎない基礎づくりだと思って、真っ先に取り組むように心がけましょう。建物を建てる際も、基礎は最初にしっかりと作りますよね。それと一緒です。
(斎藤主税)


30.未来から現状を見るクセをつける

30_fig_未来から現状を見る

 バックキャスティングとフォーキャスティングという2つの思考法があります。

 バックキャスティングとは、10年、20年といった長期的な目標実現や、現在の延長線上にはない未来の実現に使われる思考法で、「このままではいけない!」といった根本的な課題解決に有効です。「未来のあるべき姿」から「未来を起点」に解決策を見つける思考法です。(SDGsはこの考え方です)

 それに対してフォーキャスティングは、「現在を起点」に解決策を見つける思考法で、短期的でいま目の前にある課題解決や目標実現に適しています。

 この2つの思考法、どちらが正しいといったことはなく、場面によって上手に使い分けることが大切です。ただ、まちづくりにおいては、大半の場面でバックキャスティングの方が有効です。それはなぜかというと、フォーキャスティングのように、現在の視点から現状を見てしまうと、現状の問題点ばかりが気になり、なかなかまちの可能性に気がつかなくなるからです。

ここから先は

4,638字 / 4画像

¥ 200