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「空間を使いこなす人間力に期待したい」 建築家・山田貴宏さん(ビオフォルム環境デザイン室)【intervew】

八王子天神町OMOYA」は、まち暮らし不動産が企画コーディネート・運営支援をするシェアハウス。住む人も住まない人も月額制のOMOYAメンバーとしてシェアして使い、まちのコモンズを目指しています。

コモンスペースのある東棟の改修設計と外構の基本設計を手掛けたのが、ビオフォルム環境デザイン室。まち暮らし不動産とは、2015年にオープンした「okatteにしおぎ」についで、2度目のタッグです。

ビオフォルム環境デザイン室代表の山田貴宏さんに、設計に込めた考えをお聞きしました。

誰でも使いこなせる空間

ーさまざまな人が関わりながら暮らす建物は、何を見据えて設計するのでしょうか。

山田 僕らが住宅を設計する際、「融通無碍」というキーワードがあります。日本の住宅は、田の字の間取りを基本に建具を入れ、用途に応じて使いこなしてきた。空間を使いこなす力量は、住まい手に委ねられていると思うんです。使い勝手は悪くないけど、特別な仕立てもないくらいがちょうど良い。だから、具体的な誰かをイメージするのではなく、誰でも使いこなせる空間を意識して設計しています。

使い勝手が悪くないとは、具体的にどういうことでしょうか。

山田 難しい話ではなく、例えば収納を自然な動作で開けられる、廊下が狭くない、空間の無駄がないなど。素直に作れば、誰でも使いこなせる。多様な住まい方を受け止められる。でも、何の変哲もない四角い箱を作れば良いわけではありません。動線計画のアイデアや、菜園とつながる土間を用意するなどの工夫は必要です。「okatteにしおぎ」は最たる例で、土間にキッチンをしつらえ、みなさんで考えて使ってくださいとしています。今、建築に求められる機能もコストもどんどんヘビーになっているけど、僕は人間力の方に期待したいんです。

八王子天神町OMOYA東棟・コモンスペースのキッチン&リビング

開くために、閉じる

ーOMOYAの東棟は、どのように改修を進めたのでしょうか。

山田 お寺が所有する土地の建物を改修すると、まち暮らし不動産から声をかけてもらい、本立寺の住職の及川一晋さんとお会いしたんです。初めて現場を見に行った時は、かなり年季の入った建物で驚きました。

まち暮らし不動産とは、どんなやり取りをしたのですか。

山田 キッチンはどこに置くか、土間か上足か、動線をどう分けるのか。いろいろやり取りしながら進めました。シェアハウスの設計で気をつけていることがあるとすれば、閉じたい時に閉じられること。適度な距離感のバランスをとること。どこをどう仕切るのかについて、まち暮らし不動産から提案があり、僕らは技術者として現実の空間に落とすため、具体的な設計を提案する。そこはインタラクティブに進みます。

まち暮らし不動産は開くための場を作ると思われがちだけど、実は逆。きちんと閉じるべきところを閉じるから開くことができると、まち暮らし不動産メンバー内でもよく話しています。

山田 複数人で使うから、例えば脱衣室で誰かが服を脱いでいる横で洗濯はできません。建具で仕切るところ、ドアが必要なところ、きちんと施錠するところ。柔らかく閉じるためのテクニックは、随所にあります。

東棟外観。1階がコモンスペース、2階が住民専用スペース

生命に近いものに囲まれて暮らす

コストマネジメントが必要な中、貫いたことはありますか。

山田 僕らが設計するからには、なるべく木を見せてあげたい。だから随所に柱を現しているし、個室の天井にも無垢の木を使っています。

木を現すことで、何が変わるのでしょうか。

山田 改めてそう聞かれると新鮮ですね。木や土は生命に近い素材です。素材という言い方さえおかしい。太古から常にそこにあったものに囲まれて暮らすと、明らかに空間の質が違います。もちろん、科学的に解明すればエビデンスは出てくると思うけれど、まずは、人間がそこに暮らして気持ち良ければ、それで良いじゃないですか。

OMOYAには建物とまちをつなぐように庭があります。この庭はどんな位置づけでしょうか。
山田 地域に場をどう開いていくのかは、大事なテーマです。外へ外へと拡張していくために、この庭の仕立てがどうであれ、緑が接着剤になるのは必然だと思っています。そして、靴のまま入れる土間によって、庭からグラデーション的に内部へつながっていく。日本には中間領域を作る装置として、縁側があります。そこは茶飲み場であり、仕事場であり。縁側も土間も関係性を作る一つの装置です。土間にキッチンやダイニングがあって良いし、これからの住宅にはもしかしたら玄関が必要ないのかもしれませんね。

小径が続くようなアプローチのある庭。エディブルな植物が植えられている

関係性のデザインとは

ビオフォルム環境デザイン室はビジョンの一つに、「関係性のデザイン」を掲げていますね。まち暮らし不動産も事業を通じて、「関係性の変容」を目指していて、そこに共通するものがある気がしています。山田さんにとって「関係性のデザイン」とは何でしょうか。

山田 どこから話そうかな。僕が学生の頃はポストモダン全盛期だったんだけど、なかなか自分は良いと思えなくて。風や光、音などが建築の原点なのではないかと、意匠系ではなく環境系の研究室に入ったんです。大学院を出て、ゼネコンに就職し、環境設備の部署にいった。でも設備とは、建築ありきなんですよね。建築の内部の精度をどうするかで、結局それはエネルギーを使わないと維持できない。建築の外側を考えることで、設備に頼らなくても快適な内部環境を維持できるのではと考え、会社を辞めて設計事務所・長谷川敬アトリエに入りました。そんな頃に出会ったのが「パーマカルチャー」の本です。僕が漠然と考えていた建築の全体性について、既に書かれていてびっくりしました。偶然にも僕の師匠の長谷川さんが、立ち上がったばかりのパーマカルチャセンタージャパンの講師をしていて、その翌年にパーマカルチャー講座を受講しました。それ以来、20年ほど付き合いがあります。

山田さんの根底には、パーマカルチャーの考え方があるのですね。

山田 そうです。パーマカルチャーを一言で表すと、生態系を構成する多様な要素が多様な関係性を持っているから、安定した健全性を維持できるということ。だから、「関係性のデザイン」というと、僕の頭には、まずは温熱環境や通風で建築の外とつながる、自然素材を使うなど、物理的な関係性があります。建築単体ではなく、それを取り巻く環境を含めて設計する。例えば建築に木を使ったら、その木がとれる地域の産業が助かるかもしれない。そこにまでアイデアを飛ばしてデザインするということです。

建築の設計は、全体性を考えるということなんですね。

山田 和辻哲郎は著書「風土」の中で、世界中を「牧場型」「砂漠型」「モンスーン型」の三つのパターンに類型化しています。日本はモンスーン型で、自然との調和を大事にする文化だと。建築もそうで、閉じるのではなく開いて、周りとどうつながるか。それがこの場所に住む建築の作り方としては、本流だと思うんです。
今は、住宅の高気密高断熱ばかりがうたわれ、窓がどんどん小さくなってしまっている。そして屋根に太陽光発電を載せて、AIやITで制御しますと。身体性が失われて面白くない方向にいってしまっている。けれど、それに対してパーマカルチャーは、異なるベクトルの文明観を示しているんです。部分最適ではなく、全体最適を考える。生態系がそうだから。

建築を使う人々の関係性については、どう捉えていますか。

山田 物理的な関係性のデザインが前提で、二つ目に当然人間同士の関係性があります。シェアで暮らしたり、人が集まって暮らしたりする中での関係性です。あるいは地域との関係性です。これは、先ほどから言っているように、そのためには空間をあまり仕立てすぎないことを意識しています。人間同士がどう振る舞うかという個別というところまでは踏み込まない。だけどその人たちが化学反応が起きやすいような状況を作る場は、あるべきだと思っています。

人が集まるフックをつくるのも設計

ビオフォルム環境デザイン室は、国分寺にあるオフィスの1階を不定期でオープンにしてますね。

山田 はい。もともとこの建物は僕の師匠の事務所で、2019年から僕らが丸ごと3階建ての建物を借りています。普段は、1階は打ち合わせや模型作りに使っています。環境や地域、社会に開かれた建築をテーマに仕事をしているのに、自分たちが開かないのはどうなのかと事務所内で話して、1階を使っていない時に開こうと決めました。
2ヶ月に1回ほど、ゲストを呼んでこれからのひと・建築・環境・地域についてともに語り合う「bioform cafe」というトークライブをやっています。また、1ヶ月に1回ほど、コーヒーをフリーで飲めて建築の本を自由に読める場所にしたいと、計画しています。

オフィスをオープンにしていると、道路を歩いている人が気軽に入ってくることもあるのでしょうか。

山田 ただ開いているだけでは、人は入ってきません。それにはフックとマグネットをつくる技術が必要です。例えば昨年11月に開かれた国分寺イベント「ぶんぶんウォーク」の際は、地域で色々な活動をしている人とつながろうと、地産の野菜を売る「こくベジ」に出店してもらったり、屋台を呼んでコーヒーを売ったりしました。すると、前を通りかかった人が中を覗いて、「ここなんですか?」と会話が始まるんです。やっぱり人が集まるためのフックは必要で、それがあれば人は寄ってくると手応えを感じています。それも含めて、設計のテクニックですよね。

私たちも色々な方とお仕事して、実際に場を開いたことがある設計者の方が、空間をつくり込まないで済むと感じています。体感があるから、適度なところで使う人に任せられる。それが人間力に期待することなのかもしれません。ありがとうございました。

インタビュー構成・文/玉木裕希


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