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「阿部さん」を事業にすると夜のユースセンターだった_物件・居場所からはじまる vol.01

東京都立川市にある「生活館ビル」。上階は賃貸マンションで下はテナントが入れるようになっている、ともすれば普通のビルなのですが、認定NPO法人育て上げネットの所在地です。

若年無業やひきこもり状態などの、働きたいけれど働けずにいる若者の自立を目指し「就労訓練・ジョブトレ」、家族を孤立させないための「子どもの将来相談窓口・結(ゆい)」など、若者のための多様な事業を展開されています。

今回は、「夜のユースセンター」のお話を、事業を担当されている阿部さんにお聞きしました。



育て上げネットの取り組み

Q,「夜のユースセンター」もここでされているんですよね。入居されている建物について教えて下さい。

こちらは「生活館ビル」という場所です。

私たちは「ジョブトレ」という就労支援を立川で行っており、当初はここの3階の一角を小さく借りて活動していましたが、徐々に人が増え、法人が成長するにつれて、現在は3階から地下までを使用しています。

日中の支援や夜の居場所として1.5階を利用しています。2階は来客スペースや会議室、セミナー室として活用しており、皆様の活動にもお使いいただけます。

一歩を踏み出す若者たちの入口

Q,就労支援はどのようなことをされているのでしょうか?

日々の仕事体験を通じて、地域社会とのつながりを深めていただいています。仕事の練習として、商店街や地域の支援を受けながら、定期的な清掃作業などを行い、実務スキルを磨いています。

掃除や農業を通じて、単に技術を学ぶことだけでなく、チームで協力する精神や、問題が生じた際に助けを求めたり支えあったり他者を気にかける体験や機会を生み出します。

若者たちには、疑問を持ったら何度でも質問し、積極的にコミュニケーションを取ることの大切さを伝えています。

Q,ジョブトレは制度事業ではなく自主事業で行っているんですね。

自主事業であることで「ジョブトレ」では、障害の有無や手帳の所持に関わらず、支援の提供を行うことができています。

公的支援では学生や週に多くの時間を働いている人が条件に合わないこともありますが、そのような条件を問いません。

学生でも、既に就労している人でも、ジョブトレに興味を持って参加してくださることで前向きに様々なことを考えたり、視野を広げたり、自分のできることを見極めていく気持ちを歓迎しています。

途中で体調を崩して通えなくなることもありますし、一般就労を目指すものの、様々な仕事体験を通じて難しいと感じる若者もいます。

その場合は、親御さんとの面談を重ね、本人の理解を深めるよう努めています。必要に応じて他の団体や行政機関へのリファーも行っています。

Q,「若者の居場所」や「夜のユースセンター」は就労支援からどのように展開されていったのでしょうか?

家族や学校が問題意識を持っていても、若者本人は問題を感じていないケースも多く、就労支援支援を受けるハードルや、続けるハードルは高いものです。

そこで、小さなコミュニティを作ったり、サッカーや楽器演奏、ゲームなどを通じて、外に出ることの楽しさを伝え、「ここだったら何をしてもいいんだよ」という居心地の良い場所を提供することでまずは外に出て通うようになってほしいと願っています。

遊びやリラックスのグッズがたくさん!

これまでの拡張としての夜のユースセンター

Q,そのような居場所として夜のユースセンターも生まれていったのですね。

私自身、仕事とプライベートの境界をつくることなく、若者たちとの関わりを大切にしてきました。夜に食事をしながらゲームをする中で、本音がポロっと聞けることがあり、夜間は若者の不安や孤独、孤立感が高まるように感じました。

そのような体験から、関係性をすこしずつ深めていく中で事業として夜に拡張していったというイメージです。毎週土曜日の18時から21時には、この居場所を開所しており、夜外に出てしまう若者や家にいられない若者たちとの接点にもなり、支援の幅を広げています。

1人になりたい子は、土曜日に事務局が開いている以外は、地下から2階までどこでも利用可能なので、部屋を真っ暗にしてYouTubeで音楽を流している子もいれば、上の階で賑やかに遊んでいる子もいます。

すべての子が互いに合うわけではありません。できる限り多くの子に来てもらえるよう、空間の区分けをしたり、スタッフがどの程度介入すべきかを考えたりすることが重要だと思っています。

お話を聞いているといい香りが。若者との餃子パーティーが開かれていました!

Q,どのような若者がやってくるのでしょうか?

埼玉や神奈川、遠くは千葉や静岡から特急電車や新幹線を使って来る方もいます。小一時間かけて来る若者もいます。

就労支援も含めて利用している若者は、「そろそろ何かを始めなければ」と思っている背景を持っていることも多いです。引きこもりというよりは、無業の状態といえます。自室に閉じこもっているというイメージが社会的にはあると思います。しかし、親子関係が良好で、外出もできるものの、就職や仕事に対するハードルが高く、自分一人では解決できないと感じている方が多いように思います。

駅の近くにある別の建物で、小中高生の学習支援事業も行っているのですが、その場所に来る高校生たちが来ることも多いです。最近は週末の夜のユースセンターだけを利用している子も増えており、学校に行けなかったり、クラスに馴染めないなどの問題を抱えているようです。早めに異なるコミュニティに触れることで、学校とは違った居心地の良さを感じ、人間関係を築く機会にもなっているのではないかと思います。

居場所から次のステップへ

Q,この居場所が次のステップへつながっているような事業の連動性はあるのでしょうか?

現在の取り組みでは、居場所から次のステップへ進む若者の事例はまだ多くありません。まずは、この夜の居場所を、様々な不安や問題を抱える子たちが安心して訪れ、第三者の大人に家庭や学校の問題を話せる場として機能させることが目標です。

ここで、私たちは若者の問題や次に必要な支援について考え、どのように関わり、どんなサポートを提供すれば次のステージへ進めるかを模索しています。就労支援と居場所のかけあわせは有効に機能していますが、夜の時間については関係性を温めているという状況ですね。

Q,就労ができた方々とはどのような関係になるのでしょうか。

就労ができたらそれで終わりということではなく、働き続けることをサポートするアフターフォロープログラムがあります。いくらでも戻ってくることができる環境を保っています。

卒業生と連絡を取り合うことも多く、彼らの日常生活や進路に関する相談に乗るようなケースもあります。例えば、食事に行ったり、休日に遊びに行ったりすることもあり、彼らの生活に寄り添っています。

支援を始めて二十周年になりますので、十五、六年前に卒業したOBたちも頑張って働いた後の土曜日や週末に居場所として来てくれます。現在通っている若者たちの良いお手本となりたいと考えている方もいるのだと思います。

そうした行動自体が、言葉以上に彼らの気持ちを表しているのかもしれません。

ーーーありがとうございました。

育て上げネットでは新しいチャレンジとして「夜のユースセンター」が展開されていますが、その背景には「これまでの拡張」としての事業展開があり、未知のチャレンジではないことがわかりました。

また、育て上げネットが展開している就労支援と居場所×学習支援と夜の居場所、その後の寄り添いも含めた複合的な組み合わせからは、今回の休眠預金活用事業においても多々参考になることの多い事例でした。

夜のユースセンターの取り組みにまつわる、支援者支援や体制づくり、就労の出口づくりにおいて、まだまだたくさんのお話をさせていただきましたが、今回は夜のユースセンターに絞って編集させていただきました。

阿部さん自身のこれまでの歩みも含めて、京都にお招きしてもっとお話が聞ける機会をつくりたいなと感じましたので、今後の情報発信にご期待ください!

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