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食と韓国語・翻訳ノート10:資料③

「西洋料理と食堂」『新版大京城案内』(1936)

 西洋料理で美味いものを食はせる家といふと京城駅食堂、青木堂(南大門通)、桜バー(南大門通)、花月支店(長谷川町)、銀松亭(黄金町)ポアグラン(旭町)、千代田グリル(南大門通)、本町ホテル(本町)百合園(貫鉄洞)、府民館食堂(太平通)それに朝鮮ホテル(長谷川町)など、青木堂は古くから有名で持味も仲々いゝし、五十銭のランチは量も多いし味も捨て難い。スペツシヤルがあり御同伴用としても有名である。花月支店、銀松亭、桜バーなどは、半分カフヱー式になつてゐる。外は純料理で落着いて食べられるのがうれしい。今迄は『ホテルに行かう』と外来の客は朝鮮ホテルへよくつれて行つたものだがこの頃では、千代田グリル、ポアグランの進出で大分お株をそつちに奪はれたやうだ。
 支那料理は全鮮で矢張り京城が一番うまい。大きな店だけ拾つてみると、雅味園(長谷川町)、金谷園(長谷川町)、悦賓楼(鍾路)、福順興(本町)、蓬莱閣(明治町)、中華亭(明治町)、福囍楼(南大門通)会英閣(新町)茶芳園(茶屋町)などであるが、この内中華亭が広東料理で、あとは殆ど北京料理ばかり、あまり味に違ひはないが、口あたりは馴れてゐるせいか北京料理の方がピンと来る。福囍楼の料理は経営者が内地人であるだけに日本化した味で、中華亭もどつちかといふとそんなところがある。雅味園(長谷川町)の焼飯と焼売(シユーマイ)は評判もの。茶芳園には妓生が出入りする。
 食堂 三越、三中井、丁字屋、和信などの百貨店はそれそれ/゛\食堂を賑はしてゐること勿論であるが、これらのデパート食堂が今のやうに盛んでなかつた頃は、花月食堂(黄金町入口日本生命ビル)が独専みたいであつたので随分もうかつたといふ評判であつた。その余勢を駆つて出したのが長谷川町の花月支店、そしてまた老舗の料亭花月を他に譲つて転向したものである。花月といへば、かつて伊藤博文公の目をかけた処であつた。最近また府民館食堂もその手に入れた。食堂には本町一丁目のニコ/\食堂、本町二丁目の精乳舎などがある。精乳舎はもと/\牧場が本業。この御大は以前アメリカ、カリフオルニヤで暮したこともあつて、その経営する新村牧場は彼の自慢もの。牛乳のついでに、荒井牧場も有名でまた蘭谷牧場は大規模で知られてゐる。

地名参照(追加)
長谷川町 = 小公洞(ウェスティン・チョソンホテルの通り)
茶屋町 = 茶洞
貫鉄洞 = 관철동(鍾路1~2街の南川区画)


(写真は伊藤公の目をかけた、というか乱痴気騒ぎをした、料亭花月のあった場所、と推定される明洞の角地。いまはおしゃれな雑貨屋さんが入っていた。2012年10月7日、イ・グニョン(이근영)撮影)

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