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食と韓国語・翻訳ノート11:資料④

やっと本題。

明月館のメニューは『食卓の上の韓国史』に引用されている。もともとはそれの原文をとるためにプリントアウトしたのだったけど、もったいないからほかの部分も載っけようというのが、この資料篇の主旨だった。


「朝鮮料理」『新版大京城案内』(1936)

 朝鮮料理ときくと先づキムチ(朝鮮漬物)を想ひ浮べる。キムチは大体料理の中には入らないで日本の沢庵と同じものなのだが最も朝鮮カラーを持つてゐて比較的内地人に親まれ易く、夏食べる日本の一夜漬け式のものと、冬食べる沢庵式の特有の漬け方のあるものと二種あるが、余程の潔癖家でない限りこの味を一度知つたら忘れられないといはれる位の美味さを持つてゐる。漬物としてはこの他にカクテキといふのがあるが、大根の角切りを唐辛子の中に漬つけたものだから、余程手加減をしたものでない限り辛過ぎて内地人の口に合はない。
 さて朝鮮の料理屋に行くとどんなものを喰はせるかといふと、これが大して珍らしいものでなく、たゞわづかばかり料理法のちがつたものを朝鮮料理特有の器に盛つて来るだけだ。
 某日明月館に上つて『一通り持つて来い』と注文して出されたものが大体次の通り。
 〇生 栗 皮をむいた生の栗
 〇煎 果 果実、果実、生姜、蓮根、文冬、杏仁、乾葡萄等を入れて蜂蜜に漬けた物
 〇食 醯 飯と麦芽粉を混ぜて醸造した甘酒(飲酒家には好適)
 〇薬 食 糯米に密〔蜜〕、松の実、栗、棗、胡桃等を混ぜて蒸した飯
 〇神仙炉 牛肉を主として魚、松茸、筍、松の実、胡桃等を入れて煮た物
 〇大鰕煮 鰕の天婦羅
 〇栢子餅 白清に松の実を混ぜた物
 〇鶏膳菜 鶏肉を主とした雑菜
 〇醋 菜 筍、瓜、松茸等を醋に漬けた物
 〇前鰒炒 乾鰒を蒸した物
 これに前述のキムチを添えてある。日本料理にやゝ共通した点は眼に見る美味さといふ点に考慮してあることで、最近は見た眼もなか/\きれいになつて来た様だ。
 料理屋は食道園、明月館、天香園が一流所で大西館、国一館、松竹園等もある。
 料理屋で喰はせる料理はこの位にしておいて日本流でいふ『うどんや』式の通俗料理を紹介しよう。朝鮮の所謂『うどんや』は内地人側のと形式も殆ど同じで出前もするし、広いオンドル又は土間で熱いやつをやつける様にも出来てゐる。
 どんなものを食はせるかといふと、一番内地人に親み易いのが温麺(オンミヨン)、冷麺(レイミヨン)ちと手を下し難いのに餅飯(トツクギ)、湯飯(チャングパプ)、五目飯(ピビンパプ)があり、余程の朝鮮通でなければ口にあはないのに鰍湯(チユタン)、雪濃湯(ソルランタン)がある。温麺冷麺は米の粉で作つた朝鮮そばに肉と肉汁をかけてあるだげで内地人のうどん、冷麦と変りないが、餅飯、湯飯、五目飯はあまり飯に汁をかけて食はない内地人にはあまり向かない料理である。鰍湯は唐辛子を沢山ぶち込んであるので辛くて口に入り難いし、雪濃湯は何とも形容の出来ない特有の味と匂ひがなつて、朝鮮に十何年と住んでゐても一寸親しめない代物、何しろ牛の頭の皮を削いだまゝ大きな釜の中にぶち込んで三日四日と炊き続けたスープと飯とそばの中に盛込んだものだけに、生臭く油濃く、人によつては匂ひを嗅いだだけで吐気を催す程の難物でもある。
 『鍾路の裏を通ると店の前に牛の頭がずらりと並んでゐるのでビツクリした』と知らない御仁がおつしゃるが、これが雪濃湯のスープを採る牛の頭の行列で、暗闇でこいつにぶつかると一寸驚かされる。
 値段は湯飯、鰍湯が二十銭で他は十五銭程度。

トックギというのは、たぶんトックク(떡국)だろうけど、なんで餅飯って書いたんだろう。漢字で書くとしたら餅湯か餅汁じゃないかな。

日本人にとっての「食べやすさ/食べにくさ」が評価されていておもしろい。一番ぶなんなのが、温麺と冷麺。ややしんどいのがトックク(떡국)、クッパ(장국밥)、ビビンバ(비빔밥)。そんなにしんどいもんかな。そして一番やばいと言われてるのが、チュオタン(추어탕)とソルロンタン(설렁탕)。チュオタンはからいから、ソルロンタンはくさいから。当時のチュオタンは、山椒じゃなくて唐辛子で臭みを消したんだろうか。

(写真は「韓国民族文化大百科」から、黄土峴の明月館。現在の光化門、東亜日報の建物の位置)



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