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食と韓国語・翻訳ノート7:資料①

併合前の朝鮮のようすを描いた『朝鮮漫画』。文を書いた薄田斬雲はなかば官製ジャーナリストで、絵を描いた鳥越静岐というのは、『日本漫画史』を書いた細木原青起の朝鮮でのペンネーム。日本漫画の元祖は「鳥獣戯画」、的なことを言った、近代日本漫画草創期のひとり。

薄田斬雲「神仙炉」
鳥越靜岐・薄田斬雲『朝鮮漫畵』(日韓書房、1909)より。

朝鮮料理中随一の名物として、邦人の口に適するは神仙炉である。図の如く中央に円形の銅壺(どうこ)が付いた鍋である。我邦(わがくに)の煮物鍋は、凡て底から火気を与へるが、此の神仙炉は中央(まんなか)の銅壺へ炭火を入れる。銅壺の底は網になつて居るから、火は能く熾(おこ)る。銅壺の周囲(まはり)が鍋になつて肉、蔬菜、茸、栗、松の実などが入れてある、一種の寄せ鍋だ。
朝鮮料理は、臭い、不潔(きたな)いと、食(くは)ず嫌ひの眉を顰める気取り屋でも、此の神仙炉ばかりは箸を付ける。朝鮮料理を食ふ事は、先づ神仙炉より始むべし。但し、底から火気が来るのでないから、じう/\鋤焼風には出来ない、汁を沢山にして沸(に)へ立たす、火気が中央から来ると、煮物は柔かく出来て格別美味いと云ふ。実際美味い、之には理由あり、鍋が美味いばかりでない、入つて来る汁が美味いのだ、此汁は何のだしで出来るかと云ふに牛の頭を煮出した汁なのだ。それに、松の実や栗が入るから猶ほと美味い。
扨(さ)て四五名寄り合つて寄せ鍋の神仙炉を突(つつ)く、やがて汁ばかり残ると、今度は朝鮮名物の別項に紹介した饂飩を煮て食ふ。正味の処、神仙炉の妙味は、後で此の饂飩を煮て食ふ処にあるのだ。兎に角炉と鍋と合体に造られてる所は神仙炉の特色、お土産に内地へ持つて帰るにはお誂(あつら)え。
神仙炉とは、此の御馳走を食ふと、神仙と寿命を儔(ひとし)ふすると云ふ意味だとか、鍋の製作は拙だ、我邦へ輸入して、精巧に改造したら、面白い 。


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