プロアマライターたちの記事まとめ【Amazonベストセラー1位獲得作家監修】
毎週競馬場に通えば、名前も職業も知らない友人が増えていく。パドックで見かければそっと近づいて、あの馬が来るだの来ないだのと話し出す。その中の一人が、ヴィーナスだった。本名を聞いたこともあるが、私は彼女をヴィーナスと呼ぶのが好きだった。私と同じぐらい、20代半ばを過ぎたぐらいの歳。ヴィーナスはいつもベージュの小さなポシェットに、前日の晩に印を書き込んだ夕刊紙を突っ込んでいた。 ヴィーナスには時折食事に行く間柄で、でもその先には進まない男がいるのだという。 「彼と食事に
競馬を見始めて数年経つが、未だにパドックの見方がわからない。威勢のいい馬はレースであっぷあっぷだし、細く見えた馬が大差で勝つ。結局できることは彼らの気分を勝手にアテレコするぐらい。たとえばこんな感じ。 「いつまで歩かされるのかね。ちょっともよおしてきてしまったよ。いいかなここで」 ヒョイと器用にしっぽを持ち上げ用を足す。 パドックで人間に観察される一方で人間をジロジロ観察している馬。グルメのまなざしで茂みを見ている馬。彼らと話ができたら、どれだけ楽しいだろう。
ウェブメディアのウマフリさんのところにてサイレンススズカのお話をかきました! 「あの秋天で、サイレンススズカが生きたまま直線に向かわせるにはどうすればよいかの問いに真っ向から挑んだところ こうなった」 みたいな話です!(まとめるな) 他のやつもしたの方から飛べます
晴れた冬の東京、2R未勝利戦にて。 パドックの最前でビール片手にウマを見ていると、隣が小学6年生ぐらいの女の子であることに気付いた。身長が高かったので最初はわからなかったが、視界の隅に入るまるみを帯びた輪郭が子どものそれだった。物珍しさから声をかけてみた。 「馬が好きなの?」 「うん」 少しの無言のあと、 「おねえさんも?」 こんな寒い朝からビールを飲みながらウマを見ている悲しいオネーサンに返事をしてくれたのが嬉しくて、そうだよ、と終えるには勿体無いと思い、 「きみは