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「好き」を大事に生きていきたい/『どうぞ愛をお叫びください』を読んで

「ナポリの男たち」というゲーム実況グループが好きだ。
彼らがYoutubeにあげる実況動画を仕事の糧としている。毎週土曜夜にniconicoで配信される有料チャンネルの生放送も、毎週楽しく視聴している。
マスク通勤は息苦しいが、口元が見えないのがいい。電車で実況を視聴して思わずニヤリとしても、周りからは何の変哲もなく見える。
彼らのゲーム実況をヘビロテして毎日なんとか生き延びている節のあるわたし。もちろんtwitterアカウントもフォローしているのだが、ある日タイムラインに対談記事のリンクが流れてきた。

彼らのゲーム実況に対する姿勢を読んで胸を熱くしつつ気になったのが、この対談のきっかけとなった本、『どうぞ愛をお叫びください』である。


男子高校生四人がゲーム実況をするYoutuberになるという、今の時代らしい青春小説。対談を読んですぐに本を購入したのだが、忙しさにかまけてなかなか手をのばせずにいた。盆休みでようやく余裕ができ、昨日手に取って読み始め、一気読みした。

物語の語り口は非常にライトで読みやすい。
特に、ゲーム実況を撮っているシーンや、実際に出来上がった動画の場面は読んでいて非常に面白い。実際にこの実況動画を見たい! と思うようなテンポのいい会話が良い。
対談を読んでもわかる通り、心からゲーム実況を愛していることが伝わる書き口なのも良い。ゲーム実況やゲームについて、作中で丁寧な説明があるので、知らない人でも青春小説として楽しめる。
さらに、今の時代のゲームやネットの文化について、関連するサイトやアーティストの固有名詞までそのまま使っているので、知る人が読めばさらに面白い。

そしてこの物語には、タイトルにも使われている「愛」、つまり「好き」とはなんだ? という問いがたくさん詰まっている。

特にわたしが心揺さぶられたのは、物語の序盤で登場する作中詩の一節である。

夢に手を伸ばす気持ちを『愛』と呼ぶんじゃないんですか
みすぼらしい好きを捨てることが君にとっての愛ですか (47ページ)

「みすぼらしい好きを捨てる」とはなんとも心かき乱される言葉ではないか。
他人の視線や社会の風潮を気にして、自分の「好き」を出せなかった覚えがわたしにはある。数年前と比べると、幾分か自分の好きなものを表に出せるようになったものの、今もなかなか他者には理解してもらえなさそうな、「みすぼらしい好き」を隠そうとしてしまうことがある。というか、そうしないと生きていけないとさえ思っている。
この詩は、そんなわたしに大きな問いを投げかけてきた。

そして、この詩はただの詩ではなく、歌詞である。実際のリズムやメロディーは読者であるわたしにはわからない。しかし、この歌詞は、物語の根幹に響く歌として、物語の終盤まで確かに響き続ける。

男子高校生の青春感あふれる会話劇が繰り広げられる一方で、繰り返し問われる「愛」と「好き」。登場人物といっしょにわたしも自分の「好き」について考えたが、読後、最後に残ったのは、本のタイトルだった。『どうぞ愛をお叫びください』。

社会や周囲との折り合いはもちろんだいじだけれど、何よりも自分の「好き」に正直に生きたいなと思う。何はさておき、おもしろかった!

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