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銭湯が始めた裏稼業 成長編

40年近く前、地元の小学生の間で、あの銭湯のオッチャンはヒーローでした。任天堂さんや大人からみれば、悪役でショッカーで首領なのですが、構成員である僕たちにとっては、希望の星でした。

 出会い編は↓です。

300円でファミコンソフトを売る銭湯のオッチャンの噂が、一気に小学校中に広がり、興盛を極めます。本業の銭湯への影響が少ない、下校後の1-2時間が裏稼業の時間でした。お店の商品も飛ぶように売れました。

オッチャン特性黒色カートリッジを自転車カゴに詰め込み行き来する小学生が、町の日常となりました。

          おっちゃんの黒色カートリッジ↓

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どうでもいいですが、あの頃の小学生は常に立ち漕ぎでした。

近所のD君は常に背筋を伸ばした貴婦人スタイルで立ち漕ぎしてました。おまえ、絶対それ普通より遅いやろと僕は思っていましたが、

「そんなことない。死ぬほど速い、犬にも勝ってる。この前、ドーベルマンぬかした」

と言ってました。少なくとも当時の岸和田にドーベルマンを飼えるような貴族はいませんでした。というか、ドーベルマンの野良犬っているのかよ。


ある時、近くの公園で遊んでいると、D君が血相を変えて自転車で走ってきます。

D君「大変や、オッチャンがでけへん言うてる。アカンいうてるねん!」

N君「おちつけよ。なにがやねん、意味分からへん」

あまりの慌て度合いに意味も分からなかったですが、急いでるのに、貴婦人スタイルの立ち漕ぎではなく、座り漕ぎできやってきました。やっぱり、普通の乗り方のほうが速いんです。

D君「魔界村からでけへんねんて。もう、作られへんらしいわ!最悪や!」

要約すると、ファミコンソフトをコピーしていた銭湯のオッチャン曰く、「魔界村」はコピーガード機能がついた初めてのソフトで、これから同じ種類のソフトが増えてきて、もう作れなくなるだろう、との事でした。

D君から危機的情報を聞いた僕たちは、銭湯に向かいました。

オッチャン「ほんまや。もう無理かもしれん。」

オッチャン曰く、今まで使っていた機械では、魔界村以降にできたソフトは全てコピーができないそうです。今、探しているけど方法がない、との事でした。

N君が吠えます。「そんなんいわんといてや。諦めんといてよ。せっかく今まで、一緒にやってきたのに。」

いや、正確にはボクらはお金出して買ってるだけでした。なんとか頑張ってきたのは、オッチャンの方でした。

ただ、ショッカーの首領に突然、仮面ライダーには勝てないかもしれませんと、宣言されてしまったような虚脱感があり、みんな焦っていました。

N君「”機械貸してくれてる人”は、なんていうてるの?」

”機械を貸しくれている人”というのは、オッチャン特性の黒色ソフトをつくる機械を、”有償で”貸してくれている人でした。オッチャンもあまり語らなかったのと、子供心にも、うん、これ以上は聞いたらアカンと妙な合意があり、その程度の情報しかありませんでした。

オッチャン「今晩、また、オッチャン、その人に聞くから、明日また来て」

頼りないオッチャンの言葉にすがるしかない、僕たちは、銭湯を後にしました。

でも、その「明日」が、お店の最後の日となるのです。

銭湯が始めた裏稼業 別れ編 に続く


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