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春のせい


最近ふとした瞬間にあらゆる過去がフラッシュバックするようになった。本当に大したことじゃなくて高校の通学路とか子供の頃に遊んだ公園とか友達とした些細な会話とかそういうの。走馬灯みたい。もうすぐ死ぬんかな。


三ヶ月ぶりに母に会った。大人になるまでほとんど一緒に暮らしてなかったからむしろこれが当たり前の生活なんだけど三ヶ月前までの四年間ずっと共に過ごしていたから不思議とロスが大きい。今回は父方の祖母も交えての食事会だった。父がくれた諭吉一枚で少し高級な中華料理屋さんに行った。祖母は母のことが大好きだ。もう離婚して随分と長いのに今でも本当の娘のように可愛がる。昔は父の妹が母に嫉妬してちゃぶ台をひっくり返したことがあるとかないとか。

そのご飯を食べた場所というのが私が子供の頃によく来てたところで。とても大きな児童館があって桜が綺麗な公園があって商業施設があって…とにかくとてもとても良いところで。もし親が離婚してなければ私はこの町で育っていたかもしれない。そんなところだ。ものすごく久しぶりに降り立った。母に関しては約20年ぶりだったという。私なんかよりもずっと心臓がバクバクしてただろうなと思えば切なくて寂しくてセンチメンタルになってしまった。

昔よく食べていたパン屋さんのパンを買って帰った。ママが待ち合わせで使っていた噴水広場は知らない間に撤去されて工事中だった。懐かしい景色と知らない景色が混在していてなんだか上手く言葉にできないんだけど、ちゃんと月日の流れを感じた。感じてしまうほどに私は大人になったし母は歳を取ったし祖母も歳を取った。亡くなった祖父の話がこの日の会話のほとんどを占めていた。なんで人は生まれて死んでいくんだろう。誰が「永遠」なんて言葉を作ったんだろう。桜の木の下で三人で写真を撮ってバイバイした。家族なのにどうしてみんな違う場所に帰るんだろう。私は26歳にもなって何を言ってるんだろう。

家に帰ってからも次の日になってもその次の日になってもずっと心が寂しくて苦しい。普通にこのまま生きていけば最後に死ぬのは私だ。そんなの嫌だ。まだ祖父がこの世界にいないことも理解できていないのに耐えられるわけがない。こんなの嫌だ。寂しくて苦しくて耐えられない。どうして私は生まれてきたんだろう。どうしてこの時代にこんな不安を抱くために生まれてきてしまったんだろう。


この前の大雨で桜がほとんど散ってしまった。散りゆくから綺麗なんだって誰が言ったの。なんかもうこんなにも寂しいのも切ないのも生きていける自信がないのも全て春のせいにしよう。そうしよう。私は今、この世の全てを春のせいにしました。

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