0001⁑はじめまして、はじめまして。

ある日、男はなんでも開けることのできる、鍵を作りました。
それは隣の家の玄関だって、政府機関のビルの入り口だって、
エアフォースワンのコックピットだって、
いつも不思議なあの子のハートだって、
どんな錠がかかっていても、絶対の絶対に開けることができるのです。

ある日、女は一度閉めると、
何をしても開けることのできない、錠を作りました。
満員電車の一両目の扉だって、
飲みかけのミックスジュースのストローにだって。
イジワルな友達のズボンだって、
気分屋で人見知りな私の心にだって、
なんにでも、なんにでも、
絶対に開けることのできない錠をかけることができるのです。

そんなある日の昼下がり、
女が錠をかけた、わさびマヨネーズに、
男が出会います。
それは、女が経営するお好み焼き屋「日曜日」で
瓶ビールと、とん平焼きを男がチビついている時のことです。
男は大好きなわさびマヨネーズをかけまくろうとしていると、
マヨネーズがまったく出てこないのです。それはもう、まったく。
女はそれを見ると、うれしくて仕方ありません。
ふふふふふ。

男の舌はもうとん平焼きを待ちきれません。
仕方がないので、とっておきの鍵を使うことにしました。
へへへへへ。
男が鍵をマヨネーズの蓋に差し込むと、、、
一瞬花びらが散って、目の前にひとりの子どもがトンと現れました。
そして、男と女に向かってこう言うのです。

鍵はおにいさんの右手でしょ、
錠はおねいさんの左手。
さ、手を繋いで。
そうすれば、
鍵なんて開けなくたって、
錠なんてかけなくたって、
生きていけるよ。

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