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個性か押しつけか

職場にサバイバルオタクがいる。

一寸先の闇を見つけることこそが難しい都会に住みながら、強力なサーチライトを日々携帯し、壮絶に混み合うターミナル駅をサバイバル想定でサッと機敏に身を翻し進み歩く。
休日は職務に全く関係ないトリアージ講座(自治体開催)に喜々として参加する。
彼にとってこの世はいつも戦闘だ。

近年の言い方でいう「個性的」。
言葉を選ばずに言うと「変わり者」。

災害はいつ発生するかわからない。
彼は降りかかるかもしれない災厄を常に想定し生きている。
防災の鑑とも言える。

しかし。

一言でまとめると彼の話は「めんどくさい」。

お昼時の雑談で、早歩きは健康にいいと話題になった時、突然彼が「僕なんかは、いつも訓練だから歩くペースは自然と早くなるんですよ。」と切り込んできた。

突如投げ込まれた電光石火に一同沈黙。

沈黙の力に彼は一瞬怯んだが、この手の状況に慣れているのか、速攻「前進せよ!」ボタンを選び、話を続ける。さすが、サバイバル。迷いがない。

お陰でお昼休憩の和み感は消え去り、にわかサバイバル講習会が始まる。依頼してもないのに。
彼が鼻高々とサバイバルを語る横で、私達は一抜けサバイバル大会を始める。
歯磨きが……とか適当なことを言いながら、その場を脱出。

彼は時々孤立感を感じることがあると言う。
職場の人に嫌われている気がするんです、と。
こちらも身に覚えがあるのでギクッとなるが、サバイバル談議を迎合する気はない。

人の生死や災厄を喜々として語るな。これが私の本音。
トリアージだ何だ鼻高々と語る前に、仕事のミスを報告してくれ。これが私の本音。

みんなはあなたを嫌っていない。
サバイバルと言いながら、日常と向き合わないあなたに居心地悪さを感じているだけ。

サバイバルに関心を持つ、これは個人の自由。
大いにどうぞ、探求して。

しかしとて、周りが困惑し居心地悪さを感じていることも事実。

このバランスの取り方に悩む。

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