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これぞ正統「なんくるないさ」

中学生の不登校が21万人を超えているそうだ。
学校に通うことが良いことだとは全く思っていない。
実際に自分自身、中学校に苦痛を感じながら通っていたタイプだ。
しかし、人数の多さに正直驚いた。
教育の形が今の子ども達にマッチしていない、という合図のような気がしてならない。

現在は他の都市に移ってしまったが、かつて那覇には沖縄戦で教育を受ける機会を奪われてしまった年配者の夜間中学があった。

夕方になると、あちらこちらからゆっくりゆっくり歩いたり、杖をつきながら生徒の方々が通ってくる。

学校の名前を珊瑚舎スコーレ(夜間中学)という。
教科は英語に数学の五教科。そして沖縄らしいなと思ったのが三線の授業があったことだ。

夜間中学に通って単位を取ると中学の卒業証書がもらえる。もちろん高校入試もできる。
実際に夜間中学を卒業した生徒が、県内の高校へ進学した実績もある。

初めて学校の見学に行った時、雷で撃たれたような経験をした。

自分自身は嫌で嫌で通った中学校に、言葉通り目をキラキラさせて通う生徒がいるのだ。

生徒は何十歳も年上の先輩たちだ。昼間は仕事をしたり、介護をしている人もいる。

「戦後は暮らしが厳しくて、私が弟たちを育てるしかなかった。ずっと学校に通いたかったよ」
「親戚に預けられたからね。学校なんて行かせてもらえなくて、働き通しだったよ」
生徒が学校で学べなかった理由は様々だが、共通しているのは

「学校に行きたくても行けなかった」

「ずっと学校に行ってみたかった」


そう。誰一人、自分の意思で学校へ行かなかったわけではなく、行けなかったのだ。

だから、日々の生活が忙しくても「夜間中学が大好き」「勉強できて嬉しい」と言って通ってくる。

授業の内容は自分が学んできたものと遜色ない。

先生は1人1人と目を合わせて、授業を進めていく。
わからなくて困っている生徒がいても目をそらさない。
生徒たちもわからないことを恥ずかしがったり、隠すことなく「わからんさー」と言って、さらなる説明を求める。

誰一人、授業から取りこぼされていない。
私は、本来の教育はこれだ!と強く実感した。

「わからんさー」と言っていた年配の女性が、先生や周りの同級生の手を借りて問題に正解できた時の表情が忘れられない。

まさに「破顔」と言うにふさわしい表情だった。

私は彼女の笑顔を見て、

教育は人の人生を明るく照らす

と学んだ。

生徒たちは70代80代と高齢であるがゆえ、翌日には学んだことを忘れてしまっているかもしれない。

だけども「できなかったことができた!」という喜びは身体に、心に残る

喜びの積み重ねが彼女たちを支え、生きる張り合い、自信になっている。

とにかく生命力に溢れる生徒たちで、学校にいることが嬉しくて、嬉しくて仕方がないと伝わってくる。

授業中なのに、お喋りをしてしまうし、質問がいつしか自分の話したい内容に脱線することもしょっちゅうだ。

先生にたしなめられても、笑顔が消えることはない。結局先生も苦笑しながら、授業を進めていく。

夜間中学で学ぶ・教える人の光景が美しくて、涙を流さずにいられなかった。

私には想像のつかないような、様々な苦労を経て今この学び舎に集っている先輩方。
のうのうと生きてきた私が泣いてる場合じゃない、と涙をこらえようとしたが、何度も感動の波が押し寄せて涙を流さずにいられなかった。

それほど美しい光景で、頭が下がった。

見学した日の3限目は三線だった。
沖縄音楽に欠かせない楽器。

三線の授業になると教室が、ひときわ賑やかになった。生徒が倍に増えたんじゃないかと思うほどの賑やかさだ。

ただでさえ明るい生徒たちが、より明るくなり、おしゃべりしながら思い思いに三線のちんだみ(調律)を始める。

前の授業までは助け舟を出して教えることのできていた私は、三線未経験者。ここからは手も足も出ない。

生徒の皆さんは私の先生となり「ここをこんな風にしたらいいさ」「この弦をこの指で押さえたらいいんだよ」と懇切丁寧に教えてくれる。

他の授業でも輝いていたが、三線の授業になるとより一層輝いていた。

四苦八苦しながら三線を弾く私に向かって

「あなたは大学まで出て頭がいいから、練習したらなんくるないさ」

と声をかけてくれた。

なんくるないさ

朝の連続ドラマや土産物屋のT シャツに溢れ返っている言葉だが、生で聞くことはなかった。

本来の「頑張っていれば、どうにかなるさ。後は天命に任せよう」という意味からかけ離れて使われているこの言葉を私は無意識に敬遠してきた。

友人に「なんくるないさ」と使う人は皆無だ。

実際に言われたのは初めてで、“おぉっ、生きたなんくるないさだ!”と心の中で感動した。

苦労も喜びも通り抜けてきた人生の大先輩からかけられた「なんくるないさ」は、どっしりと重く心強く私の中に響いた。

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