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遊読日記②スマホ脳 (世界的ベストセラー!の帯は本当か?)

このnoteは、日本国内ではかなり売れている(と思われる)、「スマホ脳(新潮新書)」について、海外と日本での売れ行きの温度差についての考察だ。

「スマホ脳」は、スウェーデン人の医師であるアンデシュ・ハンセンによって書かれた本で、日本語訳は久山葉子さんという方が担当されている。

Kindleで購入して読んでみると、タイトルから予想がつく通り、いかにスマホが心身に悪影響を及ぼしているかが書かれている。

気になったのは、本の帯。「世界的ベストセラー上陸!」とでかでかと掲げられている。

日本では爆発的に売れているようで、amazon.co.jpのレビューは既に2200件を超えている。amazonでだけ売れているのかといえばそういうわけでもなく、紀伊国屋書店のサイトにおける「ベストセラー」(5月10日 ~ 6月8日)枠でも、5位となっていることから、書店でもかなりの売れ行きであることは間違いないようだ。日本では、文句なしのベストセラーである。

スマホ脳amazon

紀伊国屋書店スマホ脳


では、海外での売れ行きはどうだろうか?

そもそも、疑問を持ったのは、英語版が無いことにある。

僕は、著者が外国人の場合、amazonで英語版を探すことが多い。なぜなら、原著が英語の場合、日本語に翻訳された本より安いことが多々あるからだ。

例えば、やや古い本になるが、この本。

リー・クアンユー回顧録〈上〉―ザ・シンガポールストーリー 単行本

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日本語だと絶版で、4万円超え!だ。

だが、英語版はと言うと、Kindleでは1,380円で読める。

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しかも、日本語版は上巻・下巻に分かれているため、総額では9万円近くになる。つまり、英語版ならば、88,000円もお得に読むことができるわけだ。

もちろんこれは極端な例だが、原書でよければ、日本語版よりも安く読めることが非常に多い。

アンデシュ・ハンセンはスウェーデン人なので原書はスウェーデン語で書かれたようだが、世界的ベストセラーと謳っているため、当然英語版があるものかと思っていた。

だが、いくら探しても見つからない。友人の奥さんがスウェーデン人なのでこの本売れてる?と聞いたら、本どころか作者のアンデシュ・ハンセンをも知らなかった。

この本のレビューを英語で書いているスウェーデン人に「英語版あったらおしえて!」と聞いてみたら、「残念ながら無いみたい」と返事が来た。

世界的ベストセラーなのに、英語版がないのか。。

では、スウェーデンではどうなのだろう。

「スマホ脳」の原書タイトルは、スウェーデン語の元のタイトルは、 Skärmhjärnan Google翻訳で英訳すると、The Screen Brainとある。

amazon.se (スウェーデン版)で「スマホ脳」を探してみると、レビューは0である。全く売れていないのだろうか。

だが、リサーチを続けていると別の事実がわかった。amazonが幅を利かせている日本ではやや信じられないが、スウェーデンでは2020年までamazonは参入していなかったようだ。スウェーデンには独自のオンラインマーケットがあり、本ではbokus.comというサイトが有名らしい。bokus.comで「スマホ脳」の原作の販売ページを見てみると、なかなか売れているようだ。(投票数74、レビュー数11は、サイト内の他のヒット本と比べてもなかなかの数だ)

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アンデシュ・ハンセンが、そして「スマホ脳」が、スウェーデン国内では売ていることはわかった。

では、他の国ではどうだろうか。

版元のデータを探していると、こんなデータを見つけた。

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やはり英語圏では販売されていなかった。だが、北欧やバルト三国の他には、東欧や中欧でちらほら、その他はスペイン、韓国、日本で販売されているようだ。

これらの国々それぞれでの売れ行きまでは調べられないが、amazon.es(スペイン)ではレビューは1件のみだ。韓国最大のオンラインブックサイト教保文庫では、レビューは16件。ロシアのozonではレビュー5件、エストニアのRahva Raamatやapolloでもレビューは0だ。韓国では多少売れているが、ヨーロッパ諸国ではあまり売れていないように見える。

また、アンデシュ・ハンセンのインスタグラムを見ると、やたら日本での売れ行きを強調した投稿が多い。これは逆を言えば、スウェーデンと日本以外の国では目立って売れているとは言い難い状況なのではないだろうか。

結局、何をもって「世界的ベストセラー」とするかによるが、数十カ国で一定期間顕著な売れ行きがあり、総計数百万部売れてこそじゃないだろうか。

総論

誤解して欲しくないのは、海外で日本ほど売れていないからと言って、それがこの本の価値を下げることは意味しない。

自分はこの本を非常に面白く読んだ。想定を上回る発見があったわけではないけれど、スマホとの付き合い方を改めようという気にさせてくれた。読んで良かったと思う。

ただ、この記事で言いたいことは、「世界的ベストセラー」というのは、新潮社さん、ちょっと盛りすぎなんじゃないの、ということだ。同じ内容の本を日本人の医師が書いたらどうだろうか。もしかしたらここまで売れないかもしれない。

ちなみに、邦訳はされていないようだが、アンデシュ・ハンセンの"The Real Happy Pill"という本は、多くの国で取り上げられており、こちらは世界的ベストセラーと言ってもいいのかもしれない。

つまり、「スマホ脳」の快進撃は、久山葉子さんという魅力的で発信力のある翻訳家と、新潮社による巧みなマーケティングによって、スウェーデンでそこそこ売れた本が、日本では爆発的に売れた「日本的ベストセラー」なのではないか。

逆をいえば、他国でマーケティングする際に、「日本的ベストセラー!」と広告を打てるぞと、版元に伝えておきたい。

さて、長い記事書いたし、スマホ見よっかな。


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