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「祇園祭」


「酒飲みの片思い」(1984年作品)より

 山に囲まれた、京の蒸し暑い夏。祇園祭は、暑い盛りの七月一日からーカ月間、八坂神社を中心として、繰り広げられる長い祭です。
 その起源は、千百年程前(貞観十一年頃)、京に疫病が大流行した時、その病魔を追い払うために、人々が六十六本の鉾を立ててお祭りをしたのが始まりだと言われています。
 十日には、四条烏丸を中心とした周辺の鉾町では、威勢よく鉾が立ち始めます。鉾は、数十年の経験を持つトビ職や大工、車方ら大勢が二日がかりで骨組を造り上げます。釘一本使わず、荒繩でしばり上げる、繩がらみの技術は、美事な芸術です。繩の結び方や、繩がけの数で、各々の鉾が区別されるようになっています。
 十三日には、鉢と山車が全て建ち揃い、「コンチキチン、コンチキチン」と祇園ばやしも賑やかに町々に流れ響きます。いよいよ祭気分も盛り上がり、人々のこころも躍ります。
 十四日の夕方からの宵山は、各山鉾の全ての提灯に灯が入ります。夜になると、四条通りを中心に、各山鉾のある道路は、人・人・人で埋まります。
 ゆかた掛けの若やいだ声々の満ちる混雑に揺られていると、子供の頃、母に連れられて、始めて見た鉾の巨大な姿と、人の渦に揉まれて歩いた時の目が眩む程の興奮は、未だに忘れられません。
 十七日は、山鉾巡行。祭も最高潮。午前九時、長刀鉾を先頭に、南観音山の最後まで、三十一基の山鉾が、「コンチキチン」の祇園ばやしも高らかに、都大路をゆっくりと厳かに進みます。
 祇園祭は、別名「鱧(はも)祭」とも云われています。その頃、京都では、一流の料理屋から気楽ないっぱい飲み屋に到るまで、鱧の料理を出さない処は有りません。
 祭の後、興奮でほてった身体とこころを癒やすには、気楽な飲み屋で、白さくっきり、ぼたんの大輪のようなふんわりと盛り付けられた、「鱧落し」。横に添えられた梅肉のたれに「白一輪」をよごしながら、キリット冷やした清酒と共にロの中。身も心も洗われます。祭と鱧、酒に似合う。

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