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四つ葉のクローバー

あの日。私は不幸にあった。私以外にとってはそれは不幸ではないかもしれない。だけど、私にとっては不幸だった。
 私はいつものように本屋さんに来ていた。そしていつものようにゆっくりと本を見て回った。新刊から昔に発売した本まで何度来ても同じように見て回る。この時間が私は好きだ。そこに、新たな出会いがあるような気がするから。実際にそうやって出会った本はたくさんある。その中には面白かった本もそうでなかった本もある。だけど、どの本との出会いも一期一会だ。人との関係と似ている。だからこそその時に目にしたものを気になったものを買おうと私は決めたいた。
 そして、今日も私はそんな本たちと出会って本を買った。その本たちをショルダーバックに入れた。帰りに少し本でも読んで帰ろうと家の近くの公園に向かった。この公園は私のお気に入りの公園だ。人が滅多に来ないから静かに本を読むことができる。
 公園に到着すると、私は入り口から近いほうのベンチに座った。やっぱり人はいなかった。そもそも、あまり広くないし、遊具少ないからあまり来ないのだろう。それに近くにここよりも大きくて遊具がたくさんある公園があるからそっちに行くのだろうなと私は思った。
 私はさっき買った数冊の本のうち一冊を取り出して、残りをベンチの上に置いて本を読み始めた。すぐに本の世界に入り込む。私は特技だと思ている。本の世界を想像して登場人物に感情移入して、涙を流したり、笑ったり、怒ったり。傍から見ると私は不審者に見えるのではないだろうかと時々思うことがある。 だけど、私は公園で本を読むことをやめられない。外で読んだ方が物語を想像しやすいから。雨の日には本が濡れてしまうので家で読むのだけれど、こうやって晴れている日は外で本を読んで時間を潰すとが多い。
 本を読み始めて三時間くらいが経って、私は本を読み終えた。
 そして、私の不幸はここから始まるのだ。
 今読み終えた本があまりにも良すぎた。私は完全に本の世界に入り込んでしまっていた。そう、それがいけなかった。私は気がついたら家に帰っていたのだ。私は本の世界だと思い込んで現実の世界の道を歩いて家に帰ってきたらしい。嘘かとおもうかもしれないけれど、本当なのだ。たまにやってしまう。今までに何度もそういう経験がある。
 買ったばかりの本を公園に忘れてきてしまったのだ。カバンは肩にかけて本を読んでいたの大丈夫だったけれど……。
 私にとって本は命の次の次くらいに大切なものだ。しかも、その本たちとの出会いは一期一会なのだ。その時に直感でこれを読みたいと思って買った本たちなのだ。
 私は、急いで公園に向かった。本が残っていることを願いながら走って向かった。けれど、きっと残っているだろうという思いもあった。なにしろあそこは人が滅多に来ない公園だから。
 しかし、私の思いは裏切られた。本がない。確かにここのベンチに座って本を読んでいたはずなのにどこにも本が見当たらなった。
「ああ、せっかくあの人の新刊を買ったのに。読むのを楽しみにしていたのに」
私はその場で膝から崩れ落ちた。きっと、私の本を持ち去った犯人はもういないだろう。私の家はこの公園から歩いてニ十分くらいはかかる。しかもあの時は本の世界に入り込んでいたので、早くても三十分はかかったはずだ。正確な時間は分からないけれど。それから、家に到着して本がないことに気がついてここまで走ってきたけれど十分はかかっているだろう。
 私がこの公園から離れてた時間は合計四十分。それだけの時間があれば、ベンチに落ちている本を盗んで帰ることは可能だろう。
 一体どんな人が私の本を盗んでいたのだろうかだんだんと怒りが溢れてきた。諦めきれるはずもないけれど、諦めるしかない。本を忘れていった私が悪いと自分に言い聞かせて私は自分の家に帰っていった。

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