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僕たちが夫婦になった日

「ただいま!遅くなってごめん!」

今日は婚姻届を役所に提出しに行こうと
彼女と約束していた。
仕事を定時に終わらせて
帰ってく予定だったのに
結局23時を回ってしまった。

「おかえり。遅かったね、お疲れ様。」

そう言いながら彼女は微笑んだ。

「いこっか」

家を出て、僕たちは役所に向かって歩いた。
婚姻届は24時間いつでも受け付けてくれるらしい。

冬の寒空の下、僕と彼女は手をつないで歩いていた。

今日、この日を迎えられることに
僕は少し涙が出そうになった。

思えば彼女とはマッチングアプリで出会った。

僕はマッチングアプリを始めた当初、
3か月は苦労した。
女性とマッチングしても、
メッセージのやりとりがつまらなかったのか
途中で返信が来なくなる日々が続いた。

そんな中、今の彼女とマッチングした。
彼女とは順調に段階が進み、付き合うことになった。
進展のなかったマッチングアプリ生活に終止符を打てたのだ。

そんな出会いのことを思い出していると彼女は言った。

「明日も仕事だし、提出したら帰って早く寝なきゃね」

彼女は本当に真面目な人だった。
この真面目さに僕は惹かれていた。

僕と一緒に住むまで、彼女は実家住まいだった。彼女の実家には門限があった。
付き合っている間、
彼女は一度もこの門限を破らなかった。

どんなに遠くに出掛けても
門限までに帰れるようにしていたのだ。
この誠実さこそ、僕が彼女と結婚しようと思った決め手だった。
この人なら信頼できる、そう思った。

プロポーズはクリスマスにイルミネーションが
有名なテーマパークに行った。
そこでプロポーズする予定だった。

ただ"クリスマスのイルミネーションスポット"
混まない訳がない。
2時間以上の渋滞の末、到着した後、
イルミネーションを見に散策していたら
今度は雨に加えて暴風が吹いてきた。

イルミネーションどころではない。
泣く泣く車に戻り待機した。

助手席に座っていた彼女が
「濡れちゃったね」
そう笑って言った。

その笑った顔を見ていたら
自然にプロポーズの言葉が出てきた。
もちろん夢だった婚約指輪のケースの
パカってやつもやった。

そんなことを思い出している間に
役所に到着した。
僕たちは婚姻届を守衛室に提出した。
そこで当番だった守衛さんが
僕たちの婚姻届を受け取ってくれた。
結婚とは不思議なもので、
こんな紙一枚でさっきまで他人だった人と
家族になったのだ。

「はい、確かに受領しました。おめでとうございます。」

僕たちの結婚を最初に祝ってくれたのは
この守衛さんだった。

「帰る前にコンビニでお酒買おうか。
初めて夫婦になった日だし、二人でお祝いしよ」

そう言って僕たちはお酒と簡単な夕飯を買って
家路についた。

あれから5年が経った。
僕たちはあの日から何も変わらずに
仲睦まじく過ごしている。

結婚してから僕は穏やかになった。

一人暮らしの時は気楽ではあったが
感情の起伏が激しかった。
嬉しいことも辛いことも全部ひとりで
背負わなきゃいけないから。

今ではそれを分かち合える人がいる。
それだけで僕は満足だ。

日常っていうのはあの日の雨に似て
うまくいかないことばかりだ。
それでもプロポーズに言った言葉は
叶っている。

「今日は渋滞で着くの遅れちゃったし、
雨と風でイルミネーションなんてまったく
見れなかったけど、それでも僕は今日1日、
君のとなりに居れて幸せだったよ。
これからも毎日となりで君と同じ幸せを
感じていきたいです。
僕と結婚してください。

あの日の言葉は今でも嘘じゃないよ。
僕は今日も幸せです。


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