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疥癬流行

以前、勤務先の病院で角化型疥癬が流行し、病院としての対応が求められたため、その時のエピソードを共有します。

持ち込み症例でした。発症した患者は高齢者でした。数か月前から体幹部に皮疹があり、近医皮膚科でステロイド外用薬を使用していましたが、改善なく原因未特定でした。数日前から食事摂取量が低下して、精査したところ誤嚥性肺炎っぽかったので入院して抗菌薬を使用しました。その後皮疹が増悪したので薬疹と考え、抗菌薬を中止しました。しかしその後も症状の改善はありませんでした。後日患者の手掌をみると角化病変がありました。KOH法で検鏡したところヒゼンダニがみえて角化型疥癬と診断しました。

しかし時すでに遅し。入院患者とスタッフ数名に激しい掻痒感を伴う皮疹が出現していました。すでに院内で流行していたのです。やがて噂は住民や非常勤スタッフにも広がり、病棟に近づきたくないという声をいただきました。病院前に張り紙をしたり、心配している非常勤スタッフにメールしたり、保健所に相談したりするなど病院としての対応が求められました。
以下、勉強・作成した資料を供覧します。皆様の病院でもお役に立てば幸いです。

●通常疥癬と角化型疥癬のまとめ


●病院前の張り紙


●非常勤スタッフにメールした内容
 平素より、●●病院をご支援いただき、大変お世話になっております。現在、当院の病棟において、入院患者の一人に角化疥癬が判明し、その後入院患者や医療従事者間で疥癬が広がり、終息に向けた対応を行っております。
 通常、疥癬の感染経路は肌と肌の直接接触です。角化型疥癬の場合は感染力が強いですが、通常疥癬では感染力が弱く、短時間の接触や衣類・リネンなどの媒介物を介して感染することは少ないです。感染しても1-2か月は無症状であり、潜伏期間中に他の人への感染を明記した文献はありません。疥癬を発症した場合の治療としては、イベルメクチンの内服かスミスリンローションの塗布が選択されます。内服薬は一回の服用で終了しますが、外用薬としては1週間ごとに2回使用します。ただし、内服薬は肝障害や妊娠の可能性がある場合には使用できません。予防治療としては、ガイドラインでは「角化型疥癬患者と密接に接触し、無症状でも潜伏期間(4-6週間)にあると考えられる人には、予防治療を検討する」と記載されています。
 今回の院内感染の経緯としては、●月●日に入院された患者様が、●月●日までに看護師や入院患者との接触感染やリネンを介して感染したものと考えております。角化型疥癬の診断後、当院の入院患者や病棟看護師、常勤医師には、疥癬の感染予防や治療目的でイベルメクチンの予防内服またはスミスリンローションの塗布などの対応を行っております。
 支援の先生方におかれましても、病棟患者の診察を介しての感染リスクがあると考えられますが、角化型疥癬の患者と接触したのはカルテ上の常勤医師のみであり、感染リスクは低いと考えます。また当直室のリネンが患者様のリネンと一緒に洗濯されることはないので、この点も問題ないです。ただし、不安な先生方がいらっしゃる場合には、薬剤については無料で提供させていただきますので、予防投与を希望される場合は、●●までご連絡いただければ幸いです。また、先生方のご家族が疥癬を発症された場合も、無料で提供させていただきますので、こちらも併せてご連絡ください。お渡しの方法としましては、●●病院に来院いただいた際に受け取っていただくか、郵送させていただく予定です。予防投与の方法については、内服薬と外用薬の2つの方法で対応しようと考えております。服用方法は治療と同様で、内服薬の場合は一回の服用で終了し、外用薬としては1週間ごとに2回使用します。使用される場合にはどちらの薬剤を希望されるか、ご連絡ください。また内服の場合には体重毎に錠剤数が変わるので、内服対象者(本人、家族含めた)の体重もご連絡ください。
 この度はご迷惑をおかけし、大変申し訳ございませんでした。また、対応が非常に遅くなったことも重ねてお詫び申し上げます。今後とも何卒宜しくお願い致します。

 疥癬の臨床情報や治療に関して詳細な内容は、以下をご参照ください。
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/kaisenguideline.pdf

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