令和3年度 文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業 キュレーター等海外派遣プログラムに採択されました。
はじめに
この度、「令和3年度 文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業 キュレーター等海外派遣プログラム」に採択されました。
5月から10月まで、オーストリア・リンツ市にあるメディアアート機関『Ars Electronica(アルスエレクトロニカ)』で、アートプロデューサーとして研修を受けます。
アルスエレクトロニカは、40年以上も前から、コンペティションや企業との共同研究、そしてリンツ市とコラボしたフェスティバルやミュージアム運営など、メディアアートに関する様々な活動を行なっています。
重工業で廃れたリンツ市を、アートの力で活性化させたことでも有名です。
今回のプログラムでは、アーティストインレジデンスのような作品制作ではなく、上記の4部門をめぐって、アルスエレクトロニカのようなアート機関がどのように運営されているのかを学ばせていただきます。
そして、9月に行われる『アルスエレクトロニカフェスティバル』で企画を立ち上げて、アートプロデューサーとしての経験を磨きます。
このnoteでは、あらためて自己紹介と、わたしがメディアアートやまちづくりという分野で目指していることについて、考えている「未来」のことを書かせていただきます!
1.根っこにある想い
まず、メディアアートの話に入る前に。
自分の活動の根っこにある想いについて。
『ちがいをもった人たちが、”ちがい”を”ちがい”のままに、”ともに”生きるにはどうしたらいいんだろう』
これまでわたしは、歌手として路上ライブやステージパフォーマンスをしてみたり、福島に通って原発事故後のアート活動について研究してみたり、ドイツの大学でダイバーシティプログラムに参加してみたり、過疎の村で哲学対話をしたり。
はたまたお笑い芸人で絵本作家の西野亮廣さんのもとで、日本最大のオンラインサロンの運営に関わって、VRを作らせていただいたり。
本当にさまざまな経験をさせていただきました。
でも振り返ってみると、そのすべての根っこに貫かれているのは、こんな問いな気がします。
その中でも「コミュニティ」や「場」と呼ばれるものに関心があって、
「人が豊かに暮らすためには、どんな都市をつくればいいんだろう」
これがいまの自分の大きなテーマになっています。
人が生きる暮らしの中の多様性、寛容性、手ざわりだったり、いとおしさだったり。「便利」や「発展」だけでは語れない、そういう”ざらざらしたもの”が、未来の都市にとっても大切なんじゃないかと思うんです。
自分がそう感じるようになったのにはたくさんの出会いがあるのですが、その中でも、自分にとって大きなきっかけになったのは、修士課程で研究させていただいたふくしまのこと。
「プロジェクトFUKUSHIMA!」という団体について研究させていただいたのですが、そこでは、3.11後の世界でふくしまをもう一度作ろうと奮闘する方々の姿を見させていただきました。
アートや音楽、そして祭り。
それらは、単なる「復興」とも「まちおこし」では語れない、なんともいえない切実さを持っていました。
人が生きていくために、どうしても欠かせない『文化』。
そういった『文化』の力で、どうやって新しいふくしまを作っていくのか。
その現在進行形の活動の中で、とても大切なことを学ばせていただきました。
その他にも、いろんな地方に行かせていただいたり、アートプロジェクトに関わらせていただいたり。そうした経験の中で、こういったローカルの中にこそ、人間が人間らしく生きていくために大切なものが詰まっているんじゃないか、と感じるようになりました。
最近、未来の都市を考えるのに、「スマートシティ」や「スーパーシティ」という言葉がよく使われています。そこでは、最新技術を駆使して、より便利に暮らせる都市のイメージが示されています。
ただ、こういった都市計画のイメージからこぼれ落ちてしまう”ざらざら”したもの。
テクノロジーの進化だけでは語れない部分。
そこが、「文化」や「アート」と呼ばれるものの出番じゃないかと思うんです。
「未来の都市を豊かにするために、どんなアートが必要なんだろう」
こんな背景があって、メディアアートやまちづくりについて考えています。
2.未来の都市とVR
次に、メディアアート、それ自体の話について。
メディアアートと呼ばれるものの中でも、私が関心を持っているのは、VRです。
未来の都市をイメージするために、VRを使うことで、さきほど述べたような”ざらざら”したものを表現できるんじゃないかと考えています。
現在でも、不動産業界で部屋の内覧にVRが使われたり、すでに都市計画にVRは活躍しています。ただ、私が考えているのは、そういった設計図に加えて、そこに人が生きて醸成される『文化』を埋め込めないかということです。
例えば、公園。
これくらいの広さで、こんな遊具をおいて・・・という設計図に加えて、そこで子供達が遊ぶ様子、散歩したり、読書したり、そして時間が経つと周りにお店ができていたり。
風が吹いたり、花の匂いがしたり、雑踏が聴こえたり。
その場所を起点に、人が暮らすことで醸成されていく文化やにぎわい、そして自然。
それはきっと2Dの動画で表現するよりも、VRで体感できた方がよりイメージしやすいと思います。
完成図を見せるだけじゃなくて、そこから10年後、30年後に、その場所がどのように醸成されていくのかを体感できる。そんなVRです。
じゃあどうしてそんなことを考えているかというと、その理由は、まずひとつは、そういった暮らしの中で生まれる文化は、なかなか言葉や数値で伝えられないから。
感覚的にしか伝えにくいものを、もしゴーグルを被ることで体感できたら、一部の人のセンスに任せずに、みんなでイメージを共有できると思います。
そして、そういったイメージを持って都市を考えていくことが、ツルツルピカピカになってしまいそうな「スマートシティ」や「スーパーシティ」で、人間らしく暮らすためにとても大切なんじゃないかと思うんです。
そして、もうひとつの理由は、資源を削減できること。これは、いまあるVRでもすでに進んでいることですが、プロトタイプをバーチャルにすることで、資源の無駄遣いをなくすことができる。
限られた資源の中で、「都市」という大きなものを開発していくには、とても大切なことだと思います。
非日常の感性や体験を突き詰めるのではなく、日常を考えるための入り口として。そして、暮らしをもっと豊かにしていくための道具として。
今の延長上にある「未来」を見せるタイムマシーンのように、VRを使えたらいいなあと思ってます。
3.アートプロデューサーとして
ただ今回は、こういったコンテンツを制作するのではなく、こうしたアイデアをどうしたら実現できるのか、社会に実装できるのか。そのプロデューサーとしての勉強をするために、リンツに行かせていただきます。
端的に言えば、こうしたアートの活動で、どのようにお金と人を回して、持続的に活動できるようにするか、です。
はじめに書いたように、アルスエレクトロニカには、市民にひらかれたミュージアムや、企業との共同開発、そして世界のネットワークのハブになるコンペティションやフェスティバルといった色んな部門があります。
これらがどのように連携して、そしてリンツ市の行政や住民の方々とどうやって関係を築きながら、40年以上も活動を続けてきたのか。
実際にリンツに滞在しながら学ぶことで、少しでも日本で同じようなアート活動するためにヒントになることを持ち帰りたいです。
今回は、日本側でもこのようなアドバイザーの方々についていただき、日本の文脈に落としていくためにはどうしたらいいのかを相談させていただきます。
さいごに
今回は、本当にたくさんの方々のサポートのおかげで、このパンデミックの大変な状況の中でも、現地で研修を受けられることになっています。
ご尽力いただいている方々に、心より感謝いたします。
本当にありがとうございます。
先が見えない、予測できない時代だからこそ、今、生み出せる調和を探して。
日本のメディアアートや都市の文化政策に貢献できるようにがんばります。
2021年5月5日 蒔野真彩
▼これから、その他のSNSでも、オーストリアにいながら考えていること、感じていることを発信していきたいと思います。見守っていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
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