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撮られるのが好きなベトナム人と、そうでない日本人

「モ・ハイ・バー!」

ハノイの街を歩いていると、いろんな場所でこの言葉が聞こえてくる。

ベトナム語の意味は、いち・に・さん。
写真を撮るときの掛け声として、よく使われている言葉だ。

その掛け声の先に視線をやると、お?モデルか?と勘違いしてしまうくらい、キメキメのポーズをキメている人がいる。

男だろうと、女だろうと、子どもだろうと、お年寄りだろうと関係ない。

ファインダー越しに切り取った世界の主人公は皆、最高の笑顔を浮かべている。

ベトナムに住んで、もう一年が経った。モデル風のおばちゃんも、カメラマン風のお兄ちゃんも、わたしの日常に浸透している。

ベトナム人は本当に、写真が好きな人ばかりだ。

職場で集合写真を撮るとなると、もうその日の一大イベントになる。撮影時間は20〜30分もかかるし、撮る枚数はなんと100枚以上。

ポーズや画角、撮影アプリをあーだこーだ言いながら、ポーズ→撮影→チェックの繰り返し。みんな、最高の1枚を模索している。

ベトナムではそれに加えて、場所を気にせず日常的に写真を楽しむ人が多い。

オシャレなカフェがあれば、複数の席を陣取り撮影。それに道端だろうと人の家の前だろうと、いい背景さえあればお構いなし。遠慮なく撮影会が始まる。

これがベトナム人の「普通」だ。

ハノイでは道を歩いていると「写真を撮ってください!」と声をかけられることもあるのだが、少しでもセンスがない!となると、熱血指導が入ることもしばしば。

撮影距離や腰の高さ、さらにはカメラの向きまで。「違う!こう!」と細かく指定をしてくるので、本当に手厳しい。(おかげでわたしの撮影スキルは上達したけど…)


そこまでして、なんで「いい」写真を撮りたいんだろう?

これはわたしの偏見かもしれないが、日本人の大半はそこまで「いい写真」を求めていない気がする。

もちろんステキな写真が撮れたら嬉しいけれど「映え」に情熱を注いでいる人は少ない。それに他人を指導してまで、写りを気にする人はいないはずだ。

でもベトナム人は違う。

自分が一番きれいに見える姿勢、角度、光の具合を研究して、とことん自分のよさを研究し、表現している。

一体、なにがそんなに彼らを突き動かすんだろう・・・。

少し気になったので、職場のベトナム人スタッフを観察してみることにした。

すると、彼らの戦いは撮影後こそが本番だった。

撮影後、すぐさまFacebookにアップし、それからベトナム版LINEアプリでグループチャットにアップロード。その後は携帯を片手にソワソワしながら、いいね!を待っている。

確実に反応を気にしていた。

中には、撮った写真をわたしに見せ「ねえ!かわいいでしょ?」と半ば強制的に同意を求めてくる人もいた。(たしかに、実物よりもかわいく撮れていたけども。)

どうやらベトナム人は、自分のことが本当に好きらしい。

自分のことが、心の底から好き。
だからその姿を収めたい。そしてみんなに見せたい。そんな、ただただ純粋な気持ちを感じた。

現にベトナム人の中には、自分の写真を待ち受けにしている人も多い。

たぶん4割くらいの人は、自分のピン写真を待ち受けにしてるんじゃないかな。

彼らはそれだけ、自己肯定感が高いのだ。

「ベトナム人は、本当に写真が好きですね〜」と半分笑いながら話しかけると、

「はい!だって今日が一番若くて、かわいいですから!」と笑顔で返された。

写真に慣れていないわたしにとって、ベトナム人の情熱は今でもちょっと苦痛だ。

「一緒に写真を撮ろう!」と言われると、求めるレベルの違いから少し緊張するし、ぎこちない表情をすると「Smile!」なんて指摘される。

でもその試練を乗り越えると「いや〜、まあや!かわいいね〜!」「ステキ!」とまあ、みんな全力で褒めてくれるんだ。

ちょっと恥ずかしいけど、素直に嬉しい。

ベトナム人は写真を通して、誰かから褒められる嬉しさを知っている。だからこそ相手のことも惜しみなく褒めるんだと思う。

やっぱり、自分をきちんと愛せる人は、他人にも優しくできるんだ。

「自分なんて・・・」って誰も幸せにならない謙遜、この国には存在しない。

誰かを大切にしたいと思うのであれば、まずは自分を好きになることから始めなきゃね。

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