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高齢者の認知機能

高齢者にはどのような認知機能の特徴があるのでしょうか。

1. 記憶

まず、高齢者に限らず一般心理学における記憶の話をします。

記憶は大きく分けて3つあります。脳内で意味に変換される前の音声や画像をそのまま記憶する感覚記憶、これは1,2秒しか保ちません。一時的に情報を保持しておく短期記憶、その中には会話、読書、推理などが可能なように情報の作業場として少しの間物事を覚えておく作動記憶も含まれます。15~30秒保持されます。そして一度覚えてもうあまり忘れない長期記憶があります。

長期記憶は2つに分けられます。
1つ目が手続き的記憶です。手続き記憶は一般に言語化することができません。長期間の反復練習を行なうことで身につく記憶です。自転車の乗り方が一例です。
2つ目は宣言的記憶です。こちらは言語化することが可能です。更に細かく分けることができて、エピソード記憶意味記憶があります。エピソード記憶とは個人的な経験に関する情報の記憶で、"昨日レストランでハンバーグを食べた"などがこれに当たります。一方、意味記憶とは一般的知識に関する記憶で、"日本一高い山は富士山だ"などが例にあげられます。
長期記憶と関わりが深い脳の領域は側頭葉や間脳です。


2. 高齢者の記憶

記憶のうち、高齢者で衰えが目立つのは作動記憶とエピソード記憶です。
作動記憶の衰えは、情報処理を担う前頭前野の機能が低下することで起こります。
エピソード記憶は、「いつ」「どこで」など時間や場所の情報を伴った過去の出来事の記憶ですが、高齢化すると複雑な情報を符号化することができなくなってきますし、貯蔵するのも難しくなってきます。覚えたとしても検索して再生する力が衰えています。これらは海馬や前頭前野の萎縮による機能低下によって生じます。
一方で、意味記憶と手続き的記憶は加齢の影響をあまり受けません。

記憶が障害される代表的な疾患のひとつにKorsakoff症候群があります。長期記憶の前向性健忘(新しく起こった出来事を記憶できない)と、見当識の障害を伴う逆行性健忘(獲得されたはずの過去の記憶が想起できない)が同時に起こります。健忘に対して、作話で辻褄を合わせようとするのが特徴です。


3. 高齢者の知能

高齢者は認知症になることがあるというのは有名な話で、加齢によって知能が衰えるのは当然のものとされていますが、実際には衰える知能とあまり衰えない知能があります。

Cattellは知能を結晶性知能流動性知能の2つに分けました。
結晶性知能は語彙や一般知識、社会的能力など、獲得された知識や技術に関するものです。25歳前後まで急激に伸び、それ以降は横ばい又は緩やかな上昇をみせます。つまり加齢による影響をあまり受けません。
流動性知能は計算、推理、記憶といった人間の情報処理能力に関わるものです。20歳前後まで急激に伸び、それ以降は徐々に衰えていきます。


4. 高齢者の認知に関する様々な言説

高齢者が、認知機能を刺激するような知的活動に従事することで、認知症の発症を遅らせたり認知機能の低下が防止されたりするのではないかという言説があります。これを認知の予備力と呼びます。知的活動によってシナプスの活動が高まり神経ネットワークの衰えが抑制されるためと考えられています。

また、高齢者は死の数年前から認知機能が急低下するという言説もあります。終末低下といいます。ただし、こちらはまだ十分なエビデンスが無いようです。


認知症については別記事にしますね。

今回はここまで。もっと詳しく勉強したい方は、佐藤眞一・権藤恭之編『よくわかる高齢者心理学』(ミネルヴァ書房)がおススメなようです。
参考↓


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