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質的研究

1. 質的研究とは

主に語りなどの記述的なデータを用いて言語的・概念的な分析を行なうのが質的研究です。
多くの場合、研究者にとっての客観的真実は想定せず(つまり仮説というものはあまり立てず)、対象者の行為、経験、考え、意味を探求して、仮説を立ち上げることを目的として行なわれます。

質的研究の特徴としては、以下の3点をあげることができます。
①自然な状況や文脈を重視する:環境を統制した実験室ではなく、できるだけ自然な状況や文脈の中で面接や観察を行ないます。日常場面を重視しています。
②時間的文脈を重視する:社会的交互作用やプロセスといった時間的経過を見ていきます。
③当事者の多様な視点を考慮する:当事者の体験をその人自身の言葉で語ってもらうなど、研究者が想定していない新たな視点を豊富に含んだデータを取ります。

質的研究を行なう際にはいくつかの留意点があります。
まず、研究者は現場と関わりながらデータを収集するので、研究者自身の言動が対象フィールドに影響を与えていることは覚えておかなくてはいけません。対象の見え方は研究者の視点によって左右されます。自分が何を考え何をしようとしたかを振り返るリフレクシヴィティが重要になります。
分析の際には、その過程を記録しておく必要があります。研究が適切な手順を踏んで行なわれているかを判断する資料になります。
一般化可能性がそこまで高くないことも考えなくてはいけません。比較的少数のサンプルに基づいて仮説を生成するものなので、分析結果の適応範囲には限界があります。

では、質的研究の質を高めるにはどうしたらいいのでしょうか。
客観性を示すことは重要でしょう。対象の特徴をありありと記述する、複数の人から分析の視点をもらうなどの方法があります。
研究者自身の主観を鍛えておく必要もあります。
そして、先行研究と比較したり、図表を用いて分析を工夫したりして、データとの対話を深めるのも良いでしょう。データ収集とデータ分析とを行き来しながら仮説を精緻化する循環的プロセスを辿ることがよくあります。


2. 技法① 事例研究

事例研究とは、少数事例について、各事例の個別性を尊重し、その個性を記述していく方法です。
人間の心理は、人それぞれ個別な在り方をしています。個性記述的な事例研究は、人間の心理を研究するのに適した方法といえます。

いくつか種類があります。
会話記述型:心理療法やカウンセリングにおける心理士とクライエントとの会話に注目し、そのコミュニケーション過程を分析します。
過程記述型:心理士とクライエントが会話を重ねていく中で起こった出来事に注目し、その過程を記述・分析します。
ナラティヴ記述型:対象者が経験した過去の出来事について語ってもらい、ライフストーリーを語りとして考察します。対象者が生きている現実を描き出すことが目的です。
フィールド記述型:社会的現実に介入・改善していく実践活動のメンバーとして動きつつ、その過程をフィールド研究として記述・分析します。


3. 技法② フィールドワーク

研究者がフィールドに入り、自分の存在ができるだけ現実に影響を及ぼさないようにしながら観察するか、積極的に関与しながら観察し、その結果を記述・分析します。

手順は次のようになります。
①フィールドを決め、そこに入る
②フィールドの全体像を把握する
③リサーチクエスチョンを立てる
④焦点観察をする
⑤観察結果を読み解くために理論的枠組みを探索する
⑥理論に導かれた事象の選択的観察を行なう
⑦データの分析と解釈
⑧エスノグラフィーを書き上げる
手順③~⑦を繰り返して仮説を生成します。


質的研究の分析は研究者の主観をもとに始まりますが、その主観をより多くの人に納得される伝達可能な形に変えていく過程が研究です。
僕もやったことがありますが難しいですね。対象者の語りを抽出して尊重しつつ自分の考えを元にして分析していくわけですから、エビデンスがあるのかないのかがわからなくなって、結構大変でした。

質的研究と対になっている量的研究は別記事で。


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