神田川慕情
東京に3回目の緊急事態宣言が発出された。行き交う人が律儀にマスクを着けている以外に、一見、街に変化はない。
皐月橋から桔梗橋まで、橋ひとつ歩いただけで汗ばんでくる晴天。このあたりの植栽は膝丈のサツキやダルマナンテンといった顔ぶれで、木陰になる街路樹はない。時折、川辺のお宅から茂り出た庭木の木陰にホッと息をつく。小ぶりな丸い葉が織りなす緑の濃淡の木陰、木もれ陽に輝いてサクランボがいっぱい!濡れたような紅の輝き。そして青空…
川辺の道のところどころには休息スペースが設けられている。石の腰掛けやら、ベンチやらが2、3個ある程度の小さなスペース。その周囲に赤い三角コーンが置かれ、ロープで囲われた。こんなとこばかり、なんとも素早い行政のコロナ対策か?
自粛生活で川辺にはウオーキングやランニングをする人が増えた。引き締まった体軀のトレーニングを重ねていると覚しきランナー。ウオーキングは高齢者が多い。半身麻痺や膝の不調などを抱え、運動を心がけているような人もよく見かける。そんな人たちは中継基地を失って困っているのではないだろうか。
コロナ禍で始めた神田川徘徊で見つけた住宅街のジャズ喫茶に初めて入ってみた。「COFFEE JAZZ GENIUS」なる看板を見つけて、えっ、こんなところにと驚いてから、随分になる。
常連さんがたむろしていそうで、実は住宅街の店は苦手。かなりの決心で、今日は入るぞと決めていた。
40代くらいのの愛想のいい女性と、白髪のマスターと覚しき男性にさりげなく迎え入れられてみれば、コンクリート打ちっぱなしのこざっぱりした空間に時代を感じるレコードや雑誌が並んでいる。テーブルの配置も広々していて、突き抜け柱の後ろや、窓際の奥など、隅っこ暮らしができそうな席もある。
川辺の道に面した窓際の奥に陣をとって座ると、道からは少し低くなっていて気持ちのよい川風が入る。珈琲一杯500円は時間と空間代だと思えば仕方ない。第一、珈琲がおいしい。かかっているジャズのレコードも、選曲も音量も押しつけがましくない。本を読んだり、原稿を書いたりにうってつけだ。
本は数冊持ち込んだのだけれど、老眼鏡を忘れて、今日は短めに退散。時々、通ってみようと決意しながら。
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