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【音楽】 ボサノバ、ユーミン、カーボ・ヴェルデの音楽

(見出し画像:タチアーナのアルバム『あの日にかえりたい』)

新しく本棚を購入し、書籍、CD、DVDを整理した。部屋はいくぶんすっきりした。

わが家のCD。クラシック、ラテン系、フレンチポップス、日本のポップス。
ラテン系はタンゴとボサノバ。タンゴは戦前録音の歌入りタンゴ、ボサノバはジョアン・ジルベルト、カエターノ・ベローゾ、ナラ・レオン。
フレンチ・ポップスはミレール・ファルメール、パトリシア・カース、エンゾの女性陣ばかり。
日本のポップスは大貫妙子、元ちとせ、カヒミカリー、原田郁子、クランボン。
ジャズはCDで聞いても面白くないからもっぱらレコードで。

近ごろ心の癒しとなっているのはタチアーナ『あの日にかえりたい』。
ブラジルの女の子が歌うユーミンのカバーアルバムだ。
ブラジルだからボサノバ調。ポルトガル語は子音が多いから、ユーミンの歌唱とはひと味違った爽快感がある。以前はあまり好きではなかったユーミン。でも、タチアーナを聞いてから、ユーミンの良さが分かりはじめてきた。

中央フリーウェイ 片手で持つハンドル 片手で肩を抱いて
愛してるって言ってもきこえない 風が強くて
  町の灯りが やがてまたたきだす
  二人して 流星になったみたい
中央フリーウェイ 右に見えるのは競馬場 左はビール工場
この道は まるで滑走路 夜空に続く

(ユーミン「中央フリーウェイ」)

ポルトガル語を少し齧ったことがあるけれど、よくはわからない。けれど、タチアーナが発するサウダージ〝saudade〟の音が透き通り、鮮明に聞こえる。ポルトガル語は子音に特徴がある。スペルはスペイン語と似ているのに、ポルトガル語は母音を飲み込んで発音するから軽やか。スペイン語のように母音を前面にだす感じがしないから、スピード感があり疲れない。

サウダージ〝saudade〟。
きっと「夜空に」あたりの歌詞なのだろう。
サウダージはブラジル人の心情を表す言葉ということらしいが、中央フリーウェイにサウダージが乗っかって、夕暮れの空へと向かってゆくような爽快感がある。フリーウェイの照明灯が背後に飛ぶように流れ、車は夜空に続くなにかに向けて疾走する。サウダージとは男と女の、心を揺さぶる哀愁のような光景なのだろうか。

そしてもう1枚。アフリカのセネガル沖の群島、旧ポルトガル領のカーボ・ヴェルデの遅れてきた歌手セザリア・エヴォラ(Cezária Evora)のアルバム『遙かなるサン・ヴィセンテ』。
解説によると、人は彼女を「裸足の歌姫ディーヴァ」と呼ぶそうだ。歌詞はポルトガル語。はやりサウダージの世界だ。
タチアーナのアルバムは若い人向けのサウダージだが、セザリアは大人のサウダージだ。

ライナーノートに、
「ポルトガル特有の哀愁〝サウダージ〟に満ちたファドに、アフリカの躍動感に満ちたリズムが加わった、軽快でありながらもどこか切なさのあるサウンドは〝モルナ〟と呼ばれ、聴く者の心を掴んで離さない。」
とある。
カーボ・ヴェルデはブラジルからポルトガルへの航路の中継地。ブラジル音楽、アフリカ音楽、ポルトガル音楽をミックスした、他に類を見ない哀愁を感じさせる。
タイトル曲の詞と解説の一部を引用しておこう。

遙か彼方にサン・ヴィセンテを見る人は
人間の魂が耐えられる
苦しみなど想像すらできない
あちらへ、そしてこちらへと
あてもないまま彷徨い続ける
多くの人は小さな城へと足を運ぶ
他の者は裁判所へと
希望もなく運にも見放され
光に満ちた淑女が私たちを見守ってくれる
サン・ヴィセンテ、守護者たる主が私たちを導く
そして私たちはいつの日かの救いを信じ続ける

(「遥かなるサン・ヴィセンテ」)

「物憂げなモルナからはセザリアの故郷に対する、切なさに満ちた想いが痛いほど伝わってくる。」
これはライナノートからの引用である。素晴らしい解説だ。記名がないのが残念だが、記名者のラテン音楽、あるいはアフリカ音楽の著作を読みたくなった。

あと1枚
セザリオ・エヴォラのリミックスアルバム『club』に納められた楽曲《Petit Pays》。

Petit pays, je t'aime beaucoup.
愛しの故郷、私はおまえを愛する。

(「Petit Pays」)

Petit paysは小さな国とも訳せるから、セザリアの故郷である小さな島、カーボ・ヴェルデのことである。
彼女はPetit paysを、フランス語読みの「プチ・ペイ」ではなく、ポルトガル訛りの「ぺチ・パイ」と歌う。そのことがセザリアの祖国への郷愁をより深くしている。
カーボ・ヴェルデはペドロ・コスタの映画でよく知られた島でもある。

セザリア・エヴォラ(1941〜2011)
故郷の盛り場で歌い糊口を凌いでいたが、1992年、フランスでリリースしたCDがヒットし、世界に知られるようになった。51歳のときである。彼女を「裸足の歌姫ディーヴァ」と呼ぶのはそのことによる。

(日曜映画感想家:衣川正和 🌱kinugawa)

セザリア・エヴォラ『Petit pays』(Official Video)


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 amateur🌱衣川正和
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