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X恨み節と自助グループの話

Twitterを始めて5年ぐらいになる。いつのまにかXになって傷だらけのもっさりアイコンになったかと思ったら、インプレゾンビが大量に沸き始めてますます混沌としている昨今ではある。

さて。先日こんなnoteを書いた。

この一件でちょっとXに見切りをつける気持ちになった。私の論点もドンズバじゃなかったので医師に噛みつかれたのはまあしょうがない。それよりもリプや引用ポストが辛かった。医師の言うことに反論するなんて身の程知らずだとか、医療に物申す系の完全素人を見るの大好き!だとか。後者のあおりなんてまさにX。でもそのアカウントが看護師だったりしたもんでちょっと地獄だった。

自己判断で薬を飲まないのはいいが、それを他人やインフルエンサーが推奨するのはガンに民間療法を勧めるのと同じだ、という心理カウンセラーの引ポスもあった。ちょっと待ってほしい。推奨などしてない。と言うか自己判断で止めていいとさえ言っていない。なおかつ行動療法は民間療法ではない。認知行動療法に至っては薬物療法と同等の効果があると報告もされている。参考になりそうな資料を置いておく。
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1210030167.pdf(「精神神経学雑誌 第121巻 第3号」, 2019, p.167-176)

ともかくなぜそういうことになるのか。あっという間に文脈がとぶのはXランドというフィールドの特殊効果なのか。つくづく思った。この媒体は建設的な議論に向いてない。そりゃそうか、あくまでもtweetのためのフォーマットだものな。さえずったりつぶやいたりが基本なのだ。腹減ったーとかおもろかったーぐらいがちょうどいいんだよな。いや、良い意味で。

それにしても、この手の非難を向けられる時、その相手はほとんど決まってこう主張する。「なにがなんでも薬物療法」的な。以前「呼吸法が効くなんてあなたの感想ですよね。私は通院していますが呼吸法など教えてもらったことはありません」という類のことを言われたりもした。あと「パニック症は脳の病気だから薬しか効きません」的なこととか。

しかし何度も言うが、精神療法にはエビデンスがある。厚労省のHPにもそう書いてある。というか、アメリカ精神医学会はパニック症について、むしろ薬物療法は認知行動療法が利用できない場合(あるいは薬物療法を希望する場合)の選択肢だとしている。参照は以下リンク(wikipedia)。

何でも欧米をありがたがるわけじゃないが、広い視点で眺めれば日本の”当たり前”が当たり前じゃないことは往々にしてある。とは言え私が認知行動療法を選択したのもまた、医師の勧めからだったりする。別に海外のクリニックを訪ねたわけじゃない。

そもそもだけど、自身が薬物療法に充分な効果を感じているなら、それはそれで素晴らしいじゃないか。わざわざ他の治療法を否定しにかかる必要があるだろうか。私が薬物療法を邪道だとか気のせいだとか言ったなら分かるが、言ってないどころか思ってもないのだからなおさら敵対する理由が分からない。

まあ、たしかに日本では圧倒的に薬物療法が優位だ。でもそれは先にも触れたとおり有効性が精神療法に優っているからではない。主には精神療法を提供する基盤が整っていないからだ。まず精神科医が精神療法についてほとんど門外漢だというのがネックだろう。だから例えば認知行動療法を受けたくても、多くのクリニックでは簡単には受けられない。精神療法は心理士の専門なのだ。おおむね保険適用外だったりもする。しかしこれまた欧米へ視点を飛ばすと話が変わる。こういう資料があった。提供は厚労省。

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/08/dl/s0806-16b_0008.pdf

どうやら日本では、精神科医研修において、ほとんどの精神療法が「経験する」「理解できる」程度でよいとされているのに対し、アメリカではエビデンスベースドの精神療法すべてが必修科目に組み込まれているようなのだ。つまりアメリカの精神科医は精神療法の専門家でもある。そりゃ第一選択肢にもなるわという話。

Xに話を戻すが、「薬が怖いという患者さんには、薬物療法を試してみようと思ったら再診してくださいと言ってお帰りいただくこともある」みたいなことを言う精神科医もいた。いや、そこは普通に精神療法を紹介するとこだろう。保険が効かないことも説明した上で、どちらを選択するかは患者の意思に委ねられるべきじゃないか。

それがまた人情派っぽいイメージのあるアカウントだったから、なおさら驚いた。頑なな人多すぎん? なんで? でもそれもこれもさっきの資料で合点がいく。そうか、日本の精神科医の多くは、精神療法への解像度が思った以上に低いのだ、きっと。医師がそうなら患者はもっとだろう。Xでの諸反応にもぶんぶん頷ける。

ふう。いろいろ自分の中で整理がついた。とりあえず日本の然るべき機関(どこ?)には、精神療法の普及を急務としてもらいたい。その辺の課題に触れた資料もあったので、いくつか忘備録的に置いておく。

http://jact.umin.jp/ryouhou_hatten/(日本認知療法・認知行動療法学会)

https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1140091077.pdf(不安障害に対する認知行動療法)

https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2005/057131/200500784A/200500784A0004.pdf(厚生労働化学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)平成17年度分担研究報告書)

それはそれとして、私はXからちょっと距離を置こうと思う(ときどきは有用そうな情報をリポストしたりするつもり)。前述のは恨み節風味ではあるけど、少なくとも私にとってむやみに熱くなってしまいがちな媒体でもあるし。そんでふいにピコンと頭に浮かんだことがある。自助グループってどんなだろう。パニック症の、しかも認知行動療法の自助グループってあるんだろうか。

今読んでいる「ケアする対話」(金剛出版/横道誠ほか)がオープンダイアローグ(OD/統合失調症に対するケアの手法)の自助グループにまつわる話なのだが、例えばパニック症の自助グループにもODを当てはめたりできるのだろうか。あと私が福祉ネイリスト(絶賛勉強中)の資格を取ったら、それもまたグループで提供できないかしら。なんてことがバババッと頭をよぎったのだ。よぎっただけで、具体的にはなんも分からんのだけど。

あーそういえばかなり前に森田療法の自助グループの主催者さんがコメントくれたことあったなあ。話聞いてみたかったなあ。ちょっと調べてみよう。どういうものかを知るだけでも、何か新しい視点が得られるかもしれない。あ、詳しい方にアドバイスなどコメントしてもらえたら、とても参考になります。よろしければぜひ。(おわり)

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