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『大正花暦』の感想

以前、参加させていただいた『大正花暦』の感想をTwitterで呟いていたのですが、いつTwitterが消えてしまうか分からないので、保管のためにこちらにまとめておきます。

大正浪漫アンソロジー『大正花暦』

感想


はなざかりの月夜/花月小鞠さん
行方不明の姉を探すために情報屋を訪れた桜子ちゃんは、真っ直ぐで一生懸命な子なんだろうなあと言うのがひしひしと伝わってきました。そのまっすぐさと、暁さんたちの秘密を知っても変わることのない姿に心惹かれたんだろうなと。暁さんは桜子ちゃんに対して、嫌な顔をしつつ、たくさんの人に慕われていて。 商店街のひとたちに声をかけられる暁さんの描写が、日々の営みを垣間見えて好きでした。

夜の底に、紫が咲く/たまきこう
自作品。あとがきのような散文はこちら。 https://note.com/maamey/n/n935d3a7eb80e…
読み返して、登場人物の名前は某歌劇団の花組の方の漢字から決めたことを思い出しました。(好きです)

五月の競牡丹/草壁ふみこさん
牡丹の君に憧れる(橋本のぼんさんに憧れているのもその延長線なのかな)喜代ちゃんが話す大阪弁も、言動も軽やかで、16歳らしさが溢れていて可愛らしいなと思いました。 個人的に、どこかぼんやりとした豊彦さんがおにぎりを選ぶ場面がとても好きです。誰かが恋に落ちるシーンって良いですよね。豊彦さんの、リボンの色を気にしたり、いち早く異変に気が付いたり、そういうところに喜代ちゃんは救われたんだろうなあと。 幻想的で(少し怖くもあり)、描写が綺麗なお話でした。

想い初めたる鈴蘭へ/花野木あやさん
建築物や服装に関する描写が丁寧で、文章に入ってる情報量の多さに唸りました。それでいて、文章が硬くなりすぎないバランスがすごいなあと。 わたしは日常の延長にある謎解きが大好きなので、暗号や絵画の謎を解いてゆくのを楽しく読みました。御書さんにはこれからも仕事の依頼のついでのように困りごとを相談されてほしいし、早奈子さんには隣で笑っていてほしいなあと思います。

東京ファムファタル/Katzeさん
タイトルの通り、人生を狂わす運命のひとでした…! 彼女の背景が描かれない分、神秘的な雰囲気のまま物語が進んでゆくのが良いなあと思いました。ふと、昭和になって彼女はどうやって生きてゆくのかなあと未来に思いを馳せてしまいました。

止まった百合は夕暮れに/法田波佳さん
とても好みなお話でした! お兄さんの情報の出し方で、「ああ、百合絵さんはまだ整理ができてないんだな」というのが分かるし、それが須磨子さんに対する「……置いていくのですか」に繋がるのがすごく良かったです。鴇田さんが当然のように一緒の歩幅で歩いてくれるシーンがとても好きでした。隣を歩く行為が未来をも予感させてくれるような気がして。ふたりの未来が幸せでありますように!

人魚の調べは朝顔と共に/奈緒美子さん
人魚とヴァイオリンを奏でる少年との、不思議な物語でした。言及されているわけではないのですが、朝顔の花言葉が「はかない恋」なのも、作品に合っているように思います。人魚と言葉で交流ができず(できていないのだと読みました)、音楽を通して想いを繋ぎあってゆく過程や、最後には瑛太の名前だけは辛うじて覚えている人魚との心の距離が良いなあとおもいました。(瑛太がアムリタの名を認識していないのは、不死になるべき人ではないからなのかなとか深読みしたりしてみます)

星の丘まで/送水こうたさん
星のかたちをした花と、星のかたちをした丘。舞台とモチーフの重ね方が綺麗だ…!と思いました。頑なに語ろうとしなかったウヅキさんが、最後にトラジさんに看護婦として語り、特集記事になると言うのが好きでした。ウヅキさんの心が変わるあいだに、トキ乃ちゃんも悩み決断したところも、入れ子のようにふたりの心の揺れ動き、互いに影響を与え合うようで良かったです。 いつか、トラジさんとの約束が叶いますように…!

Kyrie Osmanthus/仲野識さん
文生さんは、伊織さんのスケッチはしていたけれど、カンバスは真っ白で。その白いカンバスの前に佇む文生さん事体がひとつの絵のようで、そこから抜け出してようやく、絵を完成させられたし、約束も叶えられたのかなと思いました。(詳しく書くとネタバレになりそうなので、抽象的な言い方ですみません…)

恋がしたいと願ったならば/時永めぐるさん
恋がしたい! と婚約者の清さんの元まで出向く行動力はほんとうにすごいなあと思いつつ、それはもう恋なんですよねとあき乃さんと同じ気持ちで菊子さんを見守っていた気がします。菊子さんと清さんの恋模様も可愛らしいなあとほのぼのするのですが、個人的には正二さんとあき乃さんの行く末がたいへん気になります…(生真面目な少女と軽い言動の男性、大好きです)

薔薇節/木下瞳子さん
名前を呼ぶことや名付けることは、力があるとおもっているのですが、周りの出来事に関心の薄い言緒さんがゆきさんの名を呼んだり、赤い花をすべて薔薇と呼んだりする、ひとつひとつがふたりの関係を少しずつ変えてゆくのがとても好きでした。(花をすべて薔薇と呼ぶのもふたりの間にしか伝わらない名付けだとおもうので) 最初は無理にでも入り込んできたゆきさんのこともちゃんと心の内に留めておいてくれて良かった……。あの納戸が、言緒さんの心だったようにおもいます。

自惚れの恋/英綾子さん
作中で、水仙と帝子は「互いを映し出す水鏡のよう」だとあるのですが、彼らの生い立ちも立場もまったく異なるのに、その一文がすとんと心のなかに落ちてきました。水仙については、途中で思い当たることがあり、「ああ、好きなやつだ!」と思いました。わたしも舞台の少女の話を書いたのですが、こういう丁寧な描写がしたかった…!と水仙が歌うシーンで強く思いました。したかった…! カフェーの場面は、時代は異なりますがカムカムエヴリバディのジャズ喫茶の雰囲気で想像してにこにこしました笑

椿散りても/りんさん
書簡と現代を行き来するのですが、実際にわたしが書簡を読み解いているような、不思議な感覚になりました。一方通行な文章だけを見ているはずなのに、椿さんがなにを書いたのか分かるようになっているのが、すごいなと思いました。椿さんの正体については薄々気がついていたのですが、千代子さんの方は想像がつかず、彼女の環境を思うと、胸が苦しくなりました…。 そして、読み進むにつれて、麗さんにかける言葉が変わるのが面白いなと思いました。

春を待つ/小梅さん
最後に、『大正花暦』の本が1冊残されているのが、アンソロジー全体の最後としても素敵な余韻となりました。 表紙の千代子さんも、真っ直ぐにこちらを見ているのではなく、梅とそして窓に映っているような外の景色を見ているのが素敵だと思いました。

全14作、好きな話が詰まったアンソロジーでした。ありがとうございました。意図はされてないとおもうのですが、『椿散りても』と『春を待つ』で千代子さんが続いているのが、素敵な余韻として不思議な感覚になりました。

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