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今後の物流業界で考えられるM&Aの狙い

近年、物流業界ではM&Aが活発化しており、業界再編の動きが加速しています。背景には、EC市場の拡大による物流量の増加、ドライバー不足などの労働力不足、そして2024年問題と呼ばれる残業規制強化への対応など、業界全体が大きな変革を迫られていることがあります。

このような状況下で、企業は生き残りをかけてM&Aを戦略的に活用し、規模拡大、事業領域拡大、経営資源の最適化などを目指しています。

本記事では、物流業界の動向を野村総合研究所(NRI)が2024年6月5日に発表した、2024年以降も深刻化する物流危機に関するレポート「2024年以降も深刻化する物流危機」を参考にしつつ、考えられるM&Aの狙いについて考察します。


レポートの概要

同レポートでは、トラックドライバー不足や物流コストの上昇といった課題について、最新のデータに基づいた分析と将来予測を行い、その解決策を提示している。

特に、2024年問題と呼ばれるドライバーの労働時間規制強化の影響を踏まえ、トラックドライバー不足が2030年度には36%に達し、ドライバー賃金や輸送費も大幅に上昇すると予測している点が特徴的である。

その上で、持続可能な物流を構築するために、省人化・無人化、共同化、SCM(サプライチェーンマネジメント)の高度化といった3つの解決策を提案している。

1. トラックドライバー不足についての将来推計

2023年1月、NRIはトラックドライバー不足に関する将来予測を発表した。その中で、2030年度には全国で35%、人口減少が激しい地方部では40%以上のドライバー不足を予測した。

2024年4月には、ドライバーの労働時間規制が強化(2024年問題)されたが、物流危機は継続しており、更なる対策が必要である。最新データに基づく推計では、2030年度のトラックドライバー不足は36%、ドライバー賃金は2022年度比で27%、輸送費は同34%上昇すると予測されている。

2020年度のトラックドライバー数は、前回推計の58万人から66万人に増加した。これは、貨物軽自動車運送事業者数の増加が背景にあると考えられる。

2030年度の営業用トラックの輸送量は、14.0億トンで2015年度比11%減と推計された。前回推計(19%減)より減少幅は縮小した。これは、非製造業における貨物需要が持ち直したことが要因である。特に、EC化に伴う宅配便取扱個数の増加が貢献していると考えられる。

今回の推計でも、2030年度にはドライバーが36%不足すると予測された。不足度合いは、1年前の推計とほぼ変わっていない。

2. 物流コストの上昇予測と経営へのインパクト

トラックドライバー不足により、トラックドライバー賃金と輸送費が上昇する可能性がある。2010年度以降、トラックドライバー賃金と輸送費は相関関係にあり、賃金上昇は輸送費に転嫁されてきた。

3つの変数(輸送トン、最低賃金、ドライバー数)を用いた推計モデルにより、2030年度のトラックドライバー賃金は、2022年度比で27%上昇すると予測された。また、トラックドライバー賃金と軽油価格を基に輸送費を推計した結果、2030年度の輸送費(運賃指数)は、2022年度比で34%上昇すると予測された。

トラックドライバーの賃金増加による輸送費上昇が、企業の営業利益に与える影響を分析した。その結果、輸送費の上昇だけで、営業利益が1/4程度押し下げられる可能性があることが分かった。さらに、輸送費だけでなく物流費全体に影響が波及した場合、営業利益は1/2程度押し下げられる可能性がある。

3. 持続可能な物流の構築に向けて取り組むべき課題

人手不足や輸送費の上昇が続く中、物流を持続可能なものにするためには、抜本的な改革が必要である。具体的には、以下の3つの取り組みが重要となる。

  1. 省人化・無人化: 倉庫内作業や輸配送の自動化、事務作業や管理業務のデジタル化など。

  2. 共同化: 配送頻度の調整、共同輸配送、倉庫の共同利用など。

  3. SCMの高度化: 需要予測の高度化による無駄な輸送量の削減、消費者近傍での生産など。

物流の省人化技術は進化しており、倉庫内作業の自動化や輸配送の自動化などが可能になっている。

共同輸配送の取り組み事例としては、食品業界や日雑業界などがある。しかし、共同輸配送を拡大するには、「相手探し」や「ルール調整」といった課題を解決する必要がある。

SCMの高度化事例として、ライオン、パルタック、スギ薬局の3社による連携がある。需要予測の高度化と販促強化により、在庫の適正化と返品の削減を実現した。

これらの取り組みを進める上での障壁として、現状把握の難しさ、業務の標準化、自動化設計のノウハウ不足、投資負担の大きさなどが挙げられる。

4. 物流危機に対する提言

2030年度にはトラックドライバーが36%不足し、ドライバー賃金や輸送費も大幅に上昇すると予測される中、持続可能な物流の構築に向けて早急な対策が必要である。

そのためには、まず現状を把握し、デジタル技術を活用して可視化することが重要である。その上で、業務の見直しや商習慣の変更など、全社的な課題に取り組み、持続可能な物流構築を経営課題として捉えるべきである。

本資料を参考に、物流業界で発生しうるM&Aについて、PEファンドや物流企業の目線で考察します。

考えられるM&Aの狙い

ファンドの視点

PEファンドは投資を通じて企業価値を高め、売却益を得ることを目的とします。物流業界の現状を踏まえると、以下のM&Aパターンが考えられます。

  1. 中小物流企業の買収と集約:

    • 背景: ドライバー不足やコスト上昇に悩む中小物流企業は多く、事業継続が困難なケースも増加しています。

    • 目的: 複数の企業を買収・統合し、規模の経済を活かして効率化を図り、企業価値を高めます。

    • シナジー: 共同配送や倉庫の共同利用によるコスト削減、価格交渉力の強化、経営ノウハウの共有などが期待できます。

  2. テクノロジー企業の買収:

    • 背景: 物流業界では、省人化・無人化技術を持つ企業が注目されています。

    • 目的: テクノロジー企業を買収し、物流業務の効率化を図り、競争優位性を獲得します。

    • シナジー: 自動化技術の導入によるコスト削減、サービス品質の向上、新たなビジネスモデルの創出などが期待できます。

  3. 異業種企業の買収:

    • 背景: EC市場の拡大に伴い、物流機能を持つ異業種企業の買収が活発化しています。

    • 目的: 異業種企業の物流機能を買収し、自社の物流ネットワークを強化します。

    • シナジー: 物流網の拡大、配送効率の向上、顧客基盤の拡大などが期待できます。

物流企業の視点

物流企業は、競争力を強化し、事業を拡大することを目指します。以下のM&Aパターンが考えられます。

  1. 競合企業の買収:

    • 背景: 競合企業を買収することで、市場シェアを拡大し、価格交渉力を強化できます。

    • 目的: 事業規模を拡大し、コスト削減やサービス向上を実現します。

    • シナジー: 拠点や配送網の統合、顧客基盤の共有、重複業務の削減などが期待できます。

  2. ラストワンマイル配送企業の買収:

    • 背景: EC市場の拡大に伴い、ラストワンマイル配送の需要が高まっています。

    • 目的: ラストワンマイル配送企業を買収し、配送網を強化し、顧客満足度を高めます。

    • シナジー: 配送エリアの拡大、配送効率の向上、顧客接点の強化などが期待できます。

  3. 倉庫・物流センター運営企業の買収:

    • 背景: 倉庫や物流センターの効率的な運営は、物流全体の効率化に不可欠です。

    • 目的: 倉庫・物流センター運営企業を買収し、物流インフラを強化します。

    • シナジー: 倉庫保管能力の向上、在庫管理の効率化、配送拠点の最適化などが期待できます。

その他

上記以外にも、以下のようなM&Aパターンが考えられます。

  • 再生可能エネルギー企業の買収: 環境負荷低減に向けた取り組みを強化するため。

  • データ分析企業の買収: 物流データの分析により、業務効率化や新たなサービス創出につなげるため。

まとめ

物流業界では、ドライバー不足やコスト上昇といった課題を背景に、様々なM&Aが発生すると考えられます。PEファンドは投資収益を最大化するため、物流企業は競争力を強化し事業を拡大するために、それぞれ戦略的なM&Aを検討していくでしょう。

物流業界のM&Aのパターン

物流業界におけるM&Aは、近年活発化しており、様々なパターンが見られます。以下に代表的なパターンをいくつかご紹介します。

1. 規模拡大型M&A

  • 同業種間の統合: 複数の物流企業が合併し、規模を拡大することで、より広範囲なサービス提供やコスト削減を目指す。

  • 異業種との連携: 物流企業がメーカーや小売業などの異業種企業とM&Aを行い、サプライチェーン全体を効率化し、競争力を強化する。

  • 競合排除: 競合企業を買収し、市場シェアを拡大する。

2. 事業領域拡大型M&A

  • 3PL事業者の買収: 荷主企業が3PL事業者をM&Aし、自社の物流機能を強化・効率化する。

  • 海外企業の買収: 国内物流企業が海外の物流企業を買収し、グローバルな物流ネットワークを構築する。

  • 新技術を持つ企業の買収: AIやIoTなどの新技術を持つ企業を買収し、物流の自動化・効率化を推進する。

3. 事業再編型M&A

  • 不採算事業の売却: 物流企業が不採算事業を売却し、経営資源をコア事業に集中させる。

  • 事業承継: 後継者不足に悩む物流企業がM&Aにより事業承継を行う。

  • 財務基盤強化: 資金調達を目的としたM&A。

これらのパターンはあくまで代表的なものであり、実際のM&Aは様々な要因が複雑に絡み合って成立します。

今後の展望

物流業界におけるM&Aは、今後も活発化すると予想されます。特に、EC市場の拡大やグローバル化の進展、労働力不足などの課題に対応するため、企業はM&Aを通じて事業の変革を加速させることが求められます。

M&Aを検討する企業へのアドバイス

M&Aを成功させるためには、目的を明確にし、適切なパートナーを選定することが重要です。また、M&A後の統合プロセスをスムーズに進めるための準備も欠かせません。専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることをおすすめします。

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