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キリンHDによるファンケルの完全子会社化を目指したTOB

TOBに関する概要

キリンホールディングス株式会社(以下、キリンHD)は、ファンケル株式会社(以下、ファンケル)の発行済株式及び新株予約権の全てを取得し、ファンケルをキリンHDの完全子会社とする公開買付け(以下、本公開買付け)を実施することを決定しました。

買付価格は1株当たり2,690円、新株予約権1個当たり1円、買収総額は約2,100億円になるとみられています。

本公開買付けは、健康食品市場の成長性に着目した戦略的な動きとして評価できます。
キリンHDは、ヘルスサイエンス部門の売上収益を10年以内に23年12月期実績の5倍にあたる5000億円に引き上げ、キリンHDの売上収益の2割を稼ぎ出すことを目標としています。

案件目的

近年、健康食品市場は、人々の健康意識の高まりや高齢化の進展により、世界的に成長を続けています。日本においても、2021年の市場規模は前年比3.7%増の1兆3,256億円となり、今後も安定的な成長が見込まれています。

キリンは、長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」において、「ヘルスサイエンス領域」を成長事業と位置付けており、ファンケル買収はこの戦略を加速させるものと解釈できます。
ファンケルは、化粧品や健康食品分野で独自の顧客基盤とブランド力を有しており、キリンとのシナジー効果により、更なる成長が見込まれます。

キリンHDは、本公開買付けを通じてファンケルを完全子会社化し、両社が持つ独自の強みの相互補完関係により他に類を見ないビジネスモデルを構築し、健康課題の解決に貢献する競争優位なポジションを確立することを目指します。具体的には、以下のシナジー創出を企図しています。

  • チャネルシナジー:両社の国内の広範な販売網を活用した商品展開、統合的な販売戦略の推進、「食」「ヘルスサイエンス」「医」領域でのスキンケアニーズへの価値提案

  • ベストプラクティス共有シナジー:キリンHDグループのリサーチマーケティング力、商品開発力や組織管理のノウハウの活用、EC・通信販売インフラ共有による購買データ活用機能強化や効率化

  • 海外展開シナジー:キリンHDグループのアジア・パシフィックにわたるグローバルな事業基盤を活用したファンケルの海外展開加速

  • 技術シナジー:キリンHDグループの免疫研究成果、独自素材をファンケルグループの化粧品及びサプリメントへ展開し活用範囲を拡大するなど、共同研究を深化させることによる差別優位性の高い商品開発と市場創造の推進、ファンケルグループの体内吸収効率技術のキリンHDグループ製品への活用

  • 機能共通化・共有化シナジー:サプリメント製造拠点や物流網、企画・IT・総務・財務等の管理部門の共通化・連携強化

  • ESGシナジー:環境技術、パッケージング技術の水平展開によるESGの取り組み強化

買主と対象企業の関係性

キリンHDは、本公開買付け発表日時点でファンケル株式の39,540,400株(所有割合32.52%)を所有する主要株主であり、ファンケルを持分法適用関連会社としています。
また、ファンケルの取締役のうち1名がキリンHDの取締役を兼任しており、その他1名がキリンHDの出身者です。ファンケルの監査役1名もキリンHDの出身者です。

案件背景

キリンHDとファンケルは、2019年8月に資本業務提携契約を締結し、キリンHDはファンケルの主要株主となりました。その後、両社はシナジー創出に取り組んできましたが、新型コロナウイルス感染症の影響や平均寿命の伸長に伴う健康意識の高まりを受け、両社の資本関係をさらに前進させ、グループ一体的な運営によりシナジー創出を図ることが企業価値の最大化に繋がると判断し、本公開買付けに至りました。

案件後の経営方針

キリンHDは、本取引を通じてファンケルを完全子会社化した後、両社のシナジーを最大化し、ファンケルグループの企業価値を最大化するための施策を実施する予定です。
具体的には、キリンHDグループのヘルスサイエンス事業において中核を占める子会社としてファンケルを明確に位置付け、グループ一体的な事業戦略のもと、シナジー効果を最大化することを目指します。

案件検討の経緯

ファンケルは、キリンHDから本取引の提案を受けた後、独立した特別委員会を設置し、本取引の公正性、取引条件の妥当性などを検討しました。
特別委員会は、独立したファイナンシャル・アドバイザー及び第三者算定機関としてプルータス・コンサルティングを選任し、株式価値の算定を行いました。また、キリンHDとの間で買収価格に関する交渉を行い、とすることで合意しました。

取引スキームの特徴点

本公開買付けは、二段階買収スキームを採用しています。

  1. 第一段階: 公開買付けで株式及び新株予約権を可能な限り取得

  2. 第二段階: 公開買付けで全ての株式を取得できなかった場合、株式等売渡請求または株式併合により残りの株式を取得し、ファンケルを非公開化する

取締役会の意見

ファンケル取締役会は、本公開買付けに賛同し、株主に対して本公開買付けへの応募を推奨することを決議しました。ただし、新株予約権者に対しては、応募するか否かについて判断を委ねるとしています。

価格の算出方法

キリンHDと特別委員会のファイナンシャル・アドバイザーであるUBS証券とプルータスは、どちらも株価算定手法の一つとしてDCF法を用いてファンケルの株式価値を算定していますが、その詳細にはいくつかの違いがあります。

  1. 割引率:

    • UBS証券は、加重平均資本コスト(WACC)として7.0%~7.5%を採用しています。

    • プルータスは、同じくWACCを採用していますが、6.1%~7.0%とUBS証券よりも低い値を採用しています。

  2. 継続価値の算定方法:

    • UBS証券は、永久成長率法と倍率法(企業価値/EBITDA倍率)の2つの方法を採用しています。

    • プルータスは、永久成長率法と倍率法(企業価値/EBIT倍率及び企業価値/EBITDA倍率)の3つの方法を採用しています。

  3. 継続価値の算定に用いる数値:

    • 永久成長率: UBS証券は1.5%~2.0%、プルータスは0%を採用しています。

    • 倍率: UBS証券は企業価値/EBITDA倍率として11.5倍~15.5倍を採用しています。プルータスは企業価値/EBIT倍率として16.0倍、企業価値/EBITDA倍率として11.3倍を採用しています。

  4. フリーキャッシュフローの予測:

    • UBS証券は、2025年3月期から2029年3月期までの各期のフリーキャッシュフローをそれぞれ114億円、118億円、125億円、141億円、154億円と予測しています。

    • プルータスは、2025年3月期から2029年3月期までの各期のフリーキャッシュフローをそれぞれ116億円、121億円、128億円、144億円、157億円と予測しています。

  5. 株価算定レンジ:

    • UBS証券: 2,356 円~3,205 円

    • プルータス:2,149 円〜3,067 円

買付価格決定までの過程

キリンHDは、当初1株当たり2,300円で買付けを提案しましたが、ファンケル及び特別委員会は、少数株主の利益に配慮する観点から価格の見直しを要請しました。その後、複数回の交渉を経て、最終的に1株当たり2,690円に決定しました。この価格は、以下のプレミアムを含んでいます。

  • 公表前営業日終値に対して: 42.06%

  • 直近1ヶ月間の終値単純平均値に対して: 35.93%

  • 直近3ヶ月間の終値単純平均値に対して: 37.04%

  • 直近6ヶ月間の終値単純平均値に対して: 27.97%

公正性担保措置の内容

  • マジョリティ・オブ・マイノリティ: キリンHDは、買付予定数の下限を、キリンHDと利害関係を有しない株主の過半数の賛同が得られる水準に設定しています。これにより、少数株主の意見を尊重する姿勢を示しています。

  • マーケットチェック: キリンHDは、公開買付期間を30営業日と、法定の最短期間である20営業日よりも長く設定しています。これにより、他の潜在的な買収者が対抗提案を行う機会を確保し、市場原理による価格の妥当性を担保する「マーケットチェック」の機能を果たしています。

キリンは、長年培ってきた発酵・バイオテクノロジーの技術を活かして、ヘルスサイエンス事業に注力しています。

キリンHDにおける本件の位置付け

キリンHD全体の経営課題と経営戦略

キリンHDは、原材料費の高騰や為替変動、酒税改正や薬価改定、市場競争の激化、地政学リスクやインフレによる経済状況の変化など、目まぐるしく変わる経営環境に直面しています。これらの課題に対応するため、キリンHDは事業ポートフォリオ経営を強化し、短期・中期・長期の視点で企業価値向上を目指しています。

短期的な視点では、2024年の過去最高益の更新を目指し、原材料コスト増に対応した価格改定や、主力ブランドの強化、生産性向上に取り組んでいます。

中期的視点では、2027年までの成長戦略「KV2027」を掲げ、グローバル戦略品の価値最大化や最終フェーズにある医薬品の開発、ヘルスサイエンス事業の規模拡大と収益性向上を目指しています。

長期的な視点では、10年後を見据え、医薬事業のパイプライン拡充やヘルスサイエンス事業を将来の収益の柱として育成することに注力しています。

これらの戦略を支えるため、キリンHDは財務戦略も見直しています。無形資産や将来の事業基盤獲得への投資を強化し、M&Aや事業売却などを通じてキャッシュを創出し、成長投資に振り向ける方針です。

ヘルスサイエンス事業全体の課題と戦略

https://pdf.irpocket.com/C2503/KNIO/lotA/KYU4.pdf


ヘルスサイエンス事業は、キリンHDがCSV経営を推進する上で重要な役割を担っています。しかし、収益化が課題となっています。

2023年には、Blackmores社の買収によりアジア太平洋地域での事業基盤を獲得し、売上収益は前年比30%増を達成しました。しかし、買収に伴う一時的な費用や無形資産の償却費により、2023年下半期の事業利益はマイナスとなりました。

2024年度は、Blackmores社のさらなる成長や協和発酵バイオの赤字幅縮小により、ヘルスサイエンス事業全体の増益を目指しています。具体的には、Blackmores社はオーストラリア・ニュージーランドでのNo.1ポジション強化やプレミアム戦略、中国での認知度向上などを目指します。プラズマ乳酸菌事業では、研究開発の継続やキリングループとのシナジー創出に取り組みます。協和発酵バイオは、構造改革を進め、2025年までの黒字化を目指します。

キリンHDは、ヘルスサイエンス事業を将来の収益の柱と位置づけ、積極的な投資と収益性向上への取り組みを継続していく方針です。

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