もうすこし夢をみていたい
子どもの頃は、よく夢をみていた。
眠っているときにみる夢のほう。
ありとあらゆるジャンルの夢をみていたけれど、なかでも印象的なのは、戦う夢。
何度も悪の組織と戦ったし、おばけや動物、恐竜とも戦った。
夢の中のわたしは、強かった。
正義感に満ち溢れ、足が速く、機転もきく。
武器だって華麗に使いこなすけど、殺傷はしない、守りに徹した戦闘スタイル。
実際のわたしは、ドッヂボールをすれば逃げ惑い、争い事は極端に苦手で、いつも失敗を恐れてビクビクしているような子どもだったけれど。
それでも夢の中では、誰一人として見捨てず、必ず救い出すヒーロー。
そして大概、最後には、悪の組織もおばけも動物も、みんな仲直りしているのだった。
子どもだったんだなあ、と思う。
ファンタジーの世界に入り込んで、いつも自分が主人公でいられた。
朝からとても疲れてしまうけど、なんだか楽しくもあった。
最近、そんな夢をみることがすっかり減った。
というよりも、歳をとって、みた夢を覚えていることが圧倒的に少なくなった。
夢をみていたことは覚えていても、どんな夢をみていたのか、起きたときには忘れてしまう。
目覚ましの音で、無理やり夢の世界から連れ戻されるとき、夢と現実の狭間で、ああ、これは夢なのか、と理解する。
夢の世界の自分が、少しずつ透明になっていく。
そうしてこちらの世界に戻ってくる途中で、この夢をあとで誰かに話そうと一生懸命、脳に保存を試みるのだけど、結局うまくいかなくて、そんなふうに夢の内容を必死に覚えようとしたことだけを覚えている。
あんなに鮮明だったのに、あんなに感情が忙しかったはずなのに、こんなに簡単に忘れてしまうのは、なんでだろう。
たまに、はっきりと思い出せると思ったら、どうでもいい日常のような夢。
トイレットペーパーがなくてトイレで困る夢。
歯が痛くてグラグラする夢。
遅刻する夢。
夢と現実の区別がつかなくなって、こまる。
冷蔵庫の牛乳を切らしたのは、
アイスを買うのに散々迷ったのは、
夢だっけ、現実だっけ。
夢が、どんどん現実的になってしまった。
ぜんぜん大人になんかなれていないのに、こんなところだけ変わってしまうのだろうか。
もっともっと、変な夢をみたい。
怖い思いをするのは勘弁だけれど、
またあの頃みたいに、かっこいい自分になってみたい。
夢でくらい、夢をみたいよ。
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