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新婚旅行記 四日目

今日の朝はレストランが営業しているとのことだったので、レセプション棟へ行った。

入口の扉は解き放たれているが、どうも人の気配が感じられない。入口に貼られた紙を見るとレセプションは9時から対応しているらしい。まだ8時くらいだから、建物内にいたのはレストランの女性スタッフ1人だけのようであった。

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朝食にはビュッフェが用意されていた。燻製サーモンなどはこの地方ならではの料理であろうが、あとはレタス、トマト、ハムやソーセージが置かれていた。マスタードが美味しかったのが印象的だ。また、パンの種類は豊富であった。ライ麦パンが主食であるようだが、クロワッサンなどもとても美味しかった。クッキーがいくつか用意されていたのも異国感があり良かった。フルーツジュースとスムージーもあり、たいへんに満足できる朝食であった。

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食事の途中、建物の中に小鳥が迷い込んできた。なんの鳥だろうか。黄色味を帯びた線が身体に観察された。違う国で珍しい生き物に遭遇した気分である。


時差ボケで昨日はまともに起きていられなかったから、今日の予定をあまり詳細に決められていなかった。動物園に行こうにもどうやらバスの時間が合わないらしい。迷った挙句、結局、今日サンタクロース村へ行ってしまうことになった。

サンタクロース村はホテルのすぐ近くにあるので、朝食を食べたあと比較的ゆっくりして11時くらいに宿を出た。相変わらず天気は曇りである。ハスキーの鳴き声も森に響いている。

サンタクロース村に到着したら、まずはお土産を見て回った。観光地というのはどこの国も同じようなものであり、よくわからないストラップや置物、Tシャツなどが売っていた。お店の数は結構たくさんあって、各お店を冷やかした。

日本人の観光客も多かった。おそらくツアーの客であろうが、2・3団体いたように感じる。どうやらフィンランドと日本の外交100周年だかで、フィンランドは割合積極的に日本からの観光客を多く招き入れようとしているらしい。国民性の共通項もあり、ムーミンなども日本に根付いているから親近感はあるのだろう。たしかに、海外にいながらも日本的感覚で過ごせる環境ではあるように思える。

オフシーズンであるからか、少し閑散とした雰囲気であった。いくつかの飲食場所は営業していなかった。

それでもサンタクロースはここで365日休みなく働いているのだ。実に偉い人である。人ではないが。また、ここで働くサンタクロースの補助をする人たちの事をエルフと呼ぶ。というかそれはエルフである。ということになっている。その証拠に普通スッタフオンリーと書かれる扉は、エルフオンリーとなっている。

私達はお昼ご飯を食べる前にサンタクロースに会うことにした。

サンタさんがいる建物に移動する途中、リスが私達の目の前に現れた。かわいらしいリスであった。ちょこちょこと動きまわり、木に登ったり、屋根に上ったり自由なもので、何をしたいのかわからないが、サンタ村にいるというのがなんとも嬉しい出会いであった。

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いよいよサンタクロースとのご対面である。

かなり緊張した。なにせサンタさんに会えるのであるからこの興奮はあって当然と言えるだろう。子どものころは存在を強く信じていたサンタさんであるが、年を重ねるとその存在は幻となって、いつしか架空の生物のひとつに分類してしまった。そのサンタさんが、ここにいるというのである。

憧れの芸能人に会えるという心持ちに似ているようであるが、それではない。かといって神様に会うような心持でもない。

なんだか不思議な緊張感に包まれながら、暗くファンタジックに装飾された、さながらどこかのアトラクションのような、サンタクロースのオフィスを進んでいった。階段を上ると、壁には各国の要人がサンタクロースとにこやかに映った写真が掲載されていた。そこに日本首脳の写真は無かったように思う。あったのかもしれないが、とにかく気持ちがたかぶってしまい覚えていない。

私達の前にサンタさんの部屋に入っていたのは関西から来た日本人であるらしかった。「KYOTO?OOSAKA?」とサンタさんの喋る声も聞こえてきた。もうこの壁一枚挟んだ向こうに彼は居るのだ。つばを飲み込み、唇を舐める。

前者の面会が終わり、いよいよ私達の番だ。エルフに案内されて、部屋に入る。エルフからコートや荷物をこちらの棚においてくださいと英語で言われたので、マフラーやコートを脱ぎ、カバンを置いて後ろを振り返る。

一段高いステージの中に、サンタクロースがにこやかに座っていた。
妻と私、それぞれサンタさんの隣に座るように促された。

サンタさんは大きかった。柔らかな雰囲気で、地面まで届くようなたっぷりの白いお鬚を抱え、赤いとんがり帽子をかぶり、メガネをかけたサンタさんは、座っていても150センチほどあるように見えた。物理的に大きいことは確かであるが、私自身が子供に戻ったような錯覚をおこしたがために、より巨大な存在に感じたのかもしれない。

サンタさんとの会話は簡単な英語で行われた。事前情報では日本語も話せるということであったし、前の人は比較的日本語で会話されていたので、もう少し日本語で話したかった。英語で受け答えするのはすこし大変であった。

結論を言えば、サンタさんは現実に存在するのだ。それは目の前にいるサンタさんであり、私の心の中で作り上げた理想上のサンタさんでもある。あったかくてやさしくて、平和を願い、子供達に夢と希望を与えるサンタさん。

寒い冬にサンタさんを待ちわびたクリスマスイブの夜を思い出した。硬くその存在を信じたサンタさん。そんな幻のサンタクロースが目の前のサンタさんにオーバーラップし、さながら夢心地、一種の酩酊・催眠状態にかかったようだった。

あとで写真を見るとわかるのだが、私は実にへらへらと笑っている。

とにかく、目の前にいるのはサンタさんという役割を演じている人ではあるが、見事に演じきっており、サンタさんを信じている人にとっては自分の中の理想的サンタ像を現実に顕現させることができる。そういう意味で、サンタさんはこの世に存在しているのだと確信を持つことができるから、夢見る子供、あるいは夢見がちな大人はぜひこの場所を訪れてみると良い。

サンタさんとの面会は短い時間で終了し、moimoi!キートス!といって手を振りながらお別れをした。心がとても温かくなっていた。ほっこりと暖かい湯たんぽみたいに胸の中で心をあっためてくれていた。

階段を降りていくと、面会時の写真や動画を買うか聞かれる。これは事前情報どおりであった。プリントした写真1枚が30€、写真と動画へのデータアクセス権が40€である。どこの国でもテーマパークの記念写真はなぜか高い。これが現実である。
それでも夢幻的な時間の記録を得るために、私は40€を差し出したのであった。

サンタクロース村の中には北極圏をまたぐ境界がちょうど通っており、そこでお決まりの記念写真を取って、ポストカードなどの小さいお土産をいくつか購入した。

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昼ごはんにはカフェのようなところでサーモンスープをいただいたが、これがまた絶品であった。フィンランドではサーモンがうまいというのは間違いない!

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ラップランドらしい料理はこのサーモンスープと朝食の燻製サーモンぐらいであったので、トナカイの肉を食わねばならんということで、ホテルのレストランで夕食を食べることにした。

夕食はとくに予約していなかったが、問題なく席に案内された。予約席が3つほどあったが、まだどの席にも客はおらず、私達が最初の客であった。

アラカルトメニューの中から、トナカイ肉とマッシュポテトとベリーソースのメインディッシュを注文した。他にはチキンのピラフを注文しただけである。

さて、料理が運ばれてくると、ぽつぽつと予約済みの客もやってきた。そのうち二組は日本人である。もう一組は中国人であった。なんともアジア人ばかり泊まるホテルである。どの客もオーロラを目当てにやってきたのであろうがもう天気予報は曇り一辺倒であり、オーロラは期待できそうもない。

私としてはサンタさんに会えたことでほとんどこの旅行に満足してしまっていた。

トナカイの肉はよく焼かれ、というよりこんがりと焼かれすぎで、焦げ臭さ半分、野性味のある肉感半分と言った感じであった。決して美味しいと飛び跳ねて踊るようなことは無かったが、いい思い出となった。

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やはり、旅をするというならばその土地のものを食べるべきである。どこにでもあるマクドナルドなんかに行っている場合ではないのである。その土地のものを食べることで、その土地に生きる人々の味覚を知ることができ、文化の一端に触れることができる。

ここで、本日の記録は終了である。まだ、時差ボケが解消される気配がない。時差ボケの程度にも遺伝が関係しているという説もあるからおもしろい。

明日は動物園に行くのだ。神経もだいぶ疲れてきた。

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メリークリスマス

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