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電話に笑い、そして悩むとき

それは、突然の電話であった。

転職の面接が昼前に終わり、自宅(実家)に帰ってから姪っ子・甥っ子をふくめてみんなで昼ご飯を食べていたとき。

プルルルル・・・

僕からするとその存在自体を忘れかけていた“固定電話”が、家のなかでとつぜん鳴りひびいた。たまたま電話のちかくにいた姉がとったのだが、電話の相手は、車で40分ほど離れた場所に住む祖母からだった。

聞けば、僕の本名を名乗る若い男から、「いまから行くから待っててね」と言われたのだという。もちろん、僕は電話などかけていないし、その日は訪ねる予定もなかった。なんとも恐ろしい話である。

あきらかに悪徳な詐欺だと思うのだけれど、なぜ電話の男は、僕の本名を知っていたのだろうか。そして、その電話に出たのは祖母自身ではなく、祖母と一緒に暮らしている祖父だったらしい。今年で祖母は84歳で、祖父は86歳になる。祖父は身も心もとても元気で、毎日“ナンプレ”や“将棋”を趣味として楽しんでいる。脳も足腰もまだまだ現役だ。

一方の祖母は、ここ数年で“軽度の認知症”と診断された。そこからは、「私の洋服がない」「ちゃんとご飯を用意してほしい」などとつねになにかが不安なようすで、しょんぼりと震える日々がつづいている。もちろん、洋服はタンスにそのまま入っている。ご飯だって、宅配の弁当サービスに契約をしていたり、週に何回か母たちがつくりに行ったりしてくれている。頭髪もとたんに白くなり、見た目も一気に老けて衰えた気がする。

余談だが、先週ぐらいから何度か祖母のもとを訪れているのだけれど、「仕事はどうした」「こんなに長く(仕事を)休めるはずがない」と僕のことばかり心配してくる。転職活動中だから、と言えばいいのだけれども、この時代の人に説明するのは逆に骨が折れそうなのでうまくごまかしている。

話がそれたが、案の定、祖母は詐欺の電話をとにかく怖がっていた。だから、僕が家に行き、その日だけでも一緒についていることになった。ただ今後のこともあるので、あらためて詳しい電話の内容を祖父に聞いてみた。

僕はてっきり、電話の相手の声の雰囲気から、祖父が僕だと勝手に勘違いをして、みずから「(僕の本名)か?」と尋ねてしまったのだと想像していた。親族とはいえ、祖父からしたら「若い男の声」というのは非常に聞き分けづらいと思うからだ。

でも、実際はそうではなかったらしい。つまり、相手の男は、ほんとうに僕の本名をみずから名乗ったのだという。

恐ろしいうえに、今回のように、誰かがすぐにまた訪ねられる保証はない。相談した結果、祖父母宅の“固定電話”に、迷惑電話対策サービスを追加することになった。本来なら月にいくらか支払うプランなのだが、契約者または同居人が70歳以上であれば無料でつけられるということだった。

そういえば、父もあと数年で70歳になる。自宅(実家)の電話もそうするべきか。

最近は、じぶんのことだけでなく、周りのことで考えざるをえない事案が増えてきた気がする。

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