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アートの可能性/潜在性を具現化したグラム・ロックと具象化したプログレッシヴ・ロック

©English Wikipedia

今回、ご紹介するのは、英国のグラム・ロックとプログレッシヴ・ロックです。

70年代前半、英国のロック・シーンは、極めて印象深い時期を迎える事になりました。

ロック・ミュージックの多様化から生み出されたハード・ロック、グラム・ロック、プログレッシヴ・ロックの3つのジャンルが確立され、70年代という次なるタームは、その牽引者らの台頭から混沌化の様相を呈します。

グラム・ロックとプログレッシヴ・ロックという2つのジャンルは、アティチュードとサウンドの両面において非常に対象的なジャンルですが、両ジャンルは、アート・ロックから派生したものである、と筆者は考察しています。

アート・ロックは、ロック・ミュージックと芸術的な概念が重なり合い成立したジャンルであり、その重点は、主要となるテーマやコンセプトと、それに沿う音楽的な展開に置かれていました。

アート・ロックの有するその可能性/潜在性に対し、グラム・ロックは、演劇的な表現様式を主体にして具現化し、他方、プログレッシヴ・ロックは、高度な演奏技術を主軸にして具象化していきます。

結果、グラム・ロックとプログレッシヴ・ロックは、その成果として各々のジャンルにおける象徴的な作品群を創り上げると共に、商業的な成功をも収めました。

両ジャンルによるシーンの支配力は、70年代半ば以降、興行化の反動によるものか、徐々に沈静し、この2つのジャンルは、同時代におけるその役目を一度終える事となりました。

しかしながら、アート・ロック/グラム・ロック/プログレッシヴ・ロックのそのインパクト性は、各年代において派生ジャンルによる再生産を生み出し、そのオルタナティヴ性は、各時代において異ジャンルによる再定義を呼び起こし、ロック史において意義深いページを刻む事となったのです。

『Electric Warrior』/T.Rex(1971)
作品評価★★★★(4stars)

ショービジネスの世界での成功を企む若者は、スウィンギング・ロンドン期にはモッズとして、フラワー・ムーヴメント期にはヒッピーとして、トレンドを渡り歩いてきたが、並々ならぬ野心は、その時流の変化を見逃さず、グループの改名と共に、エレクトリックな進化を遂げていく。

T.Rexの出世作となった2ndは、1stの幻想文学的なフォーク・ロックを経てリリースされ、気鋭のデザイナー/ヒプノシスが手掛けたアートワークが示す通り、スリー・コードの名手は、その手癖からトニー・ヴィスコンティによる綺羅びやかな加工が施されたロックンロールを怪しげに展開した。

ムーヴメントを捲き起こした翌年の成功により、遂にロック・スターへと昇りつめたボランだが、自堕落なライフ・スタイルからまさに時代の徒花へと化していく。しかしながら、次の流行であるソウル/ディスコから構築されたグラム・ロックは、後年、多くのファン/信奉者をよりSF的かつストレンジな虚構世界へと誘い続けた。

『The Man Who Sold the World』/David Bowie(1970)
作品評価★★★★☆(4.5stars)

ビートニク詩人とモダン・ジャズで青年期を通過したデヴィッドは、舞踏家/リンゼイ・ケンプやチベット仏教に対する師事から〈ボウイ〉としての輪郭が帯びていくが、その作家性をより定める重要な契機となったのは、映画監督/スタンリー・キューブリックに対する感銘であった。

グラム・ロックの宿す妖しさがジャケットに映し出された今作3rdは、ハイプという名の偽悪的なペルソナで覆われたバンドとのセッションで制作され、ハードかつプログレッシヴな目まぐるしい演奏と共に、実存主義的な作家であるボウイは、厭世観が漂う暗鬱な脚本を披露した。

70年代におけるデヴィッド・ボウイは、いくつかの都市を渡り歩く中、いくつかの新たな人格を形成し、アート・ロックの模索と到達を重ねたが、自身の肉体や精神を犠牲にしたその変革は、冷戦下の世界や既存のロックに対し、常に批評的であり続けたのである。

『The Yes Album』/Yes(1971)
作品評価★★★★(4stars)

演奏技術面においてかなり卓越したプレイヤーを擁するこの5人組は、いわゆるプロト・プログの潮流から形成されたグループだが、そのスタイルは、ある意味特殊であり、多様化するシーンの趨向を独自の解釈によって血肉化させ、ハードかつ複合的なロックの進化を試みていた。

大手アトランティックからリリースされたイエスの3rdは、完璧主義的なハーモニーやグルーヴを継続しつつ、プロデューサー/エディ・オフォードの編集技術や新ギタリスト/スティーヴ・ハウの多種多様なギター・ワークを導入して制作され、スペーシーなサウンドを鳴らし始めたバンドは、打ち出したその新機軸から商業的な危機をも乗り越えた。

バンドの明確な方向性が定まった彼らは、それに適したキーボーディストの加入によって更なる飛躍を遂げ、組曲的な展開を進化させると共に、大作を積み上げていく。ちなみに、前任の好ギタリスト/ピーター・バンクスもフラッシュを結成し、彼らとある意味並走する形となった。

『Nursery Gryme』/Genesis(1971)
作品評価★★★★(4stars)

アート・ロック以降、英国のロック・シーンは、ミドル・クラス出身の若者のプレゼンスが増し、それは、社会学的な意味においても、一つの転換点となったが、パブリック・スクールの在学中に結成された彼らは、そうした形勢の好例と言えるだろう。

役者が揃ったジェネシスの三作目は、前作の寂寥感が漂う牧歌的且つ叙情的な世界観の一部を踏襲しつつも、真骨頂であるその諧謔的な寓話や奇抜な演劇性がお披露目され、バンドは、ハードかつエモーショナルな演奏とドラマティックな展開からより高みを目指していく。

彼らの転機は、ピーター・ガブリエルのアート・ロック志向の明瞭化によって訪れ、その後バンドは、フィル・コリンズ体制でスタジアム・ロック志向を明快化させていく。そして、それは、プログレの分岐点ともなり、同ジャンルは、洗練化と商業化の二つの水流と共に、国際的なジャンルへと発展した。

それでは、今日ご紹介したアルバムの中から筆者が印象的だった楽曲を♪


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