年収の壁が日本経済に与える影響とその解決策

△概要　

日本経済は人手不足が深刻化しており、特にパート労働者の賃金上昇が顕著です。しかし、既婚女性が「年収の壁」を意識して働く時間を調整するケースが多く、労働需給の悪化を招いています。政府の試算によれば、年収の壁を越えて働く方が生涯所得が増えることが示されていますが、情報不足や雇用の安定性に対する懸念が就業調整を選ぶ要因となっています。家事負担の公平化や学童保育の拡充など、働く環境の改善が求められます。

□年収の壁が労働需給を悪化させる　

○日本では、パート労働者の賃金が上昇している一方で、既婚女性が「年収の壁」を意識して働く時間を調整するケースが多く見られます。これは、年収が一定額を超えると税制の控除や配偶者手当が受けられなくなるためです。このため、労働需給が悪化し、経済成長の足かせとなっています。政府の試算によれば、年収の壁を越えて働く方が生涯所得が増えることが示されていますが、情報不足や雇用の安定性に対する懸念が就業調整を選ぶ要因となっています。

□家事負担の公平化と働く環境の改善　

○年収の壁を越えて働くためには、家事負担の公平化や働く環境の改善が必要です。日本では、家事負担が妻に大きく偏っており、夫や家族への気兼ねが働く時間の延長を妨げています。家事負担の公平化や夫の長時間労働の是正、学童保育や放課後活動の拡充が求められます。これにより、既婚女性が働く時間を増やしやすくなり、労働需給の改善が期待されます。

□政府の試算とその意義　

○政府が公表した試算によれば、年収の壁を越えて働く方が生涯所得が増えることが示されています。例えば、夫婦と子ども2人の世帯で、妻が時給1125円で1日当たり3.4時間働くと年収は100万円になりますが、1日に6.8時間働くと年収が200万円になり、生涯の給与所得は1600万円多くなります。さらに、年金所得も約900万円多くなります。この試算は、年収の壁を越えることの経済的なメリットを示しており、広く周知されることが望まれます。

□情報不足と雇用の安定性

　○年収の壁を越えることのメリットが広く知られていないことが、就業調整を選ぶ要因の一つです。個人が壁を越えた際のプラスとマイナスの見通しが明らかになっていないため、年収の壁を越えることに対する不安が残ります。また、非正規雇用の立場では雇用の安定性に対する懸念があり、生涯所得をディスカウントせざるを得ない状況です。人口構造的に人手不足は長期間続くため、過度な悲観バイアスを正すことが重要です。

□マクロ経済的な視点からの解決策　

○労働不足が経済成長の足かせになりかねない状況で、年収の壁による就業調整の常態化はマクロ経済的に見て大きなひずみです。問題を正面から見据え、家事負担の公平化や働く環境の改善、情報の周知などを通じて、年収の壁を乗り越えるための具体的な対策を講じることが求められます。これにより、労働需給の改善と経済成長の促進が期待されます。