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カオスな世界の生存戦略と島の新しいホテルEntô(エントウ)

しばらくぶりの船旅のおともに選んだ本は、「京大的アホがなぜ必要か カオスな世界の生存戦略」。

今月、スタディ・リトリートを始めてから、そのときどきに自分が勉強していることと、誰かの勉強や目の前で起きる物事とのいろいろなシンクロが起こるのだけれど、今回の本とホテルはまさにそうだった。

カオスな世界を生き延びてきた生物の歴史の中でも、特筆すべき存在として紹介されているシアノバクテリア。彼らは二酸化炭素で満たされた環境で暮らしていた生物にとって「毒」である酸素を光合成で生み出し、それにより多くの生物は絶滅したと考えられているそう。その環境の中で酸素を食べて生きる「非常識」な生物の子孫が私たちである。

自然界はカオスなので、そのプロセスで何が起きるかは予測できません。みんなが二酸化炭素の中で生きるのが当たり前だったところに、突如として酸素を吐き出すシアノバクテリアが出現したりもするわけです。
そんな環境ですべてを計画的に実現しようとするのは、どう考えても無理な相談でしょう。想定外の変化に巻き込まれる可能性は常にあるのですから、予定通りに物事が運ぶとは限りません。(中略)
では、想定外の変化に備えるにはどうすればいいのか。早い話、生物の真似をしてみればよいのです。それは「選択と集中」ではなく、「発散と選択」です。未来のことはわからないのだと割りきって、効率や短期的な合理性をあまり気にせず、いろいろなことをやってみる。そのなかで、うまくいきそうなものを、「ゆるく」選択する。あまりきつく選択して「集中」してしまうと、次の選択肢がなくなってしまいます。それが「生物的」なスタイルにほかなりません。
(酒井 敏著「京大的アホがなぜ必要か カオスな世界の生存戦略」より)

まさに今の自分へのメッセージだと勝手に受け取っていたところ、このホテルにいたのだ。シアノバクテリアが。

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まさかの遭遇に感動。これはこのホテルがジオパークの拠点施設だからこその出会いだろう。
他にも、これまでの地球と大地と生物の歴史はもちろん、2億5千年後の未来に想いをはせられる展示もあったりして、今立っているこの島を、そして自分自身を遠く引いた視点で見られる場所だった。

ホテルの客室はというと…

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空や海の色が、雲や波の形が、時間の流れとともに変化して、チェックインの15時から、チェックアウトの11時まで、ずーっと眺めていても飽きない空間だった。

船に乗るとき、船が起こす波紋を眺めるのが好きなのだれど、フェリーと、高速船レインボーと、内航船のどうぜんといそかぜと、それぞれの走った後の波紋の広がり方が全然違うことにもあらためて気づいた。撮り鉄ならぬ撮り船なみに、船が通るたびに写真を撮った。

本の話に戻ると、この本の終章は「アホとマジメの共同作業」。

新しい価値を生むには、どんどんムダなことをしたほうがよい。それができるのは、効率を重んじる多数派ではなく、失敗を恐れない少数派。その成功率はひどく低いけれど、それは社会のために必要だ―。
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社会にとっての「正しい」目的や目標が最初からあるわけではない。そこに所属する人々があれこれともがきながら動いているうちに、社会としての目標が生まれてくるのだと思います。つまり、私たち一人ひとりが社会の目標設定にかかわっている。
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それ(※アホとマジメ)はどちらが正しいというものではなく、役割分担です。全体として、ある程度のバランスを保っていればよいのです。お互い理解できないからといって、排除しあうことは、自分自身の否定につながります。
マジメな人には、アホの気持ちが理解できないかもしれません。でも、多様な社会における共生関係は、お互いにわかりあうことができなくても成り立ちます。異なる価値観を理解はできなくても、その存在がなければ社会が成り立たないことを受け入れさえすればいい。ですから、「理解できない」という理由でアホを排除しないでほしいと思います。(中略)
自分の中のアホに寛大になれれば、気が楽になるだけでなく、生活がよりクリエイティブで楽しいものになるはずです。
(酒井 敏著「京大的アホがなぜ必要か カオスな世界の生存戦略」より)

ここまでお読みいただくと分かると思うが、この本で使われている「アホ」は「賢い」の反対語ではなく、「常識」や「マジメ」の対立概念だ。

最初に入った会社で、「良質な非常識」が大事にされていたことを思い出した。
前提となっている「常識」を理解した上で、それを疑う。
そして、そこに新しい提案をする。

このホテルにもそんな姿勢を勝手に感じ取った。
「ないものはない」を掲げ、これまでにも常識を覆すような挑戦で、未来をつくってきたこの島からの新しい挑戦を心から応援したい。

スタッフの皆さんの想いに触れて、あらためてそう思う。


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