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じいさん#5 タクシーな愛車

じいさんは昔のタクシーみたいな黒いクラウンに乗っていた。
じいさんは七三の髪型で太めの黒縁メガネにお気に入りの水色キャップを被って、半袖シャツの裾をスラックスにしまい、革靴を履いている。
さすがに白のグローブははめてなかったけど、タクシードライバーみたいだ。

車内もタクシーみたいで、シートにはヒラヒラの白いカバーがついていて、カーステレオから甲子園のラジオ中継が流れている。

僕は車酔いが酷くて、
「進む方向を見とけよ。」

と何度もアドバイスをもらうけど、過去の失敗のイメージがあるから乗った瞬間からもう吐きそうになる。

じいさんはご機嫌で色々話しかけてくるけど、僕は吐き気を我慢するのに必死で、なかなか話を聞いてられない。

ある日、ドライブ中にじいさんおすすめの曲を教えてくれた。「リンゴの唄」という昭和歌謡で、リンゴを愛でるシンプルな歌だった。

「じいさんに続けて歌ってみろ。」

その時は歌の意味はよく分からなくて、ただ繰り返し歌わされたけど、今はテンポのいいメロディとかリンゴの赤さを際立たせるボーカルの声質がいいなって思って気に入っている。

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