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漫画を描いてるゆうちゃんへ

ゆうちゃん、元気ですか?
きっと今も寝ずに漫画を描いていることと思います。
私は今とてもぼんやりしています。

ゆうちゃんが聞くとびっくりするかもしれませんが、私はもう漫画を描いていません。
私は普通の仕事をしています。今5社目で、ようやく、良い職場に巡り合えました。ここまで来るには、実はとてもとても大変でした。何年も、私は仕事ができませんでした。今は、自分で言うのも何ですが、そこそこです。給料はそこまで多くないですが、やっとの思いで報われた気持ちです。
あと、ちょっと前に結婚しました。まともで真面目な優しい人です。この人がいると私はとても落ち着いて日々を過ごすことができます。

ゆうちゃんは、そんな私に、「良かったね」と言いますか。
ゆうちゃんは素晴らしく見通す力があるので、きっと、良かったねなんて言わず、みさちゃんらしくないねと変な顔をして言うことでしょう。そして結果的に、みさちゃんが幸せならそれで良いんじゃないと言うでしょう。

けど、私は「これ以外に、もう無い」という気持ちです。つまり、これで良かったと言うことしかできません。
不思議なことにこれが運命だったのです。

朝、アラームの音で目が覚めます。
今でも朝は嫌いです。でも私はなんとか頑張って仕事に行きます。
自分の気持ちよりも一般的な生活とお金が大事になってしまったのです。まるでロボットのようです。

仕事は忙しく、憂鬱ですが、良い人もいます。

長い時間をかけて、電車に乗って家に帰ります。
家では、ご飯をつくったりつくらなかったりします。
自分でつくっても外で買っても、ご飯は毎日美味しいです。

お風呂に入って、あたたかくなって、布団に入って寝ます。

眠れないときもありますが、それでも夜の布団は大好きです。
暗くて、静かで、まるでお母さんの子宮の中にいるようで、24時間このような状態であればいいのに、と心から思います。

ゆうちゃんが今も漫画を描いていることを知っています。
私はそれだけで、自分に生きる意味があると強く思います。
ゆうちゃんの作り出すすべてが、私に、いろんな人に、いろんな意味を与えます。
ゆうちゃんの漫画を見ると、凄すぎて泣けてきます。

ゆうちゃんの漫画が好きすぎて、私は、自分が何の面白みの無い、ロボットのような存在であっても、それで良いと思います。
ゆうちゃんの漫画を読んでいるときだけは、私は間違いなくロボットじゃなくて人間だからです。

いろんな感情になります。うらやましいとか、天才だとか…けど一番思うのは、好きでたまらないという、まっすぐな、嬉しくて幸せな感情です。
ゆうちゃんの漫画を読むと、昔よく、一緒に絵を描いているときに、急に目の前で変顔されて、笑わせられたのを思い出します。ゆうちゃんの漫画は、そんなゆうちゃんみたいな感じで、いつも、なんだこの展開って感じで、なんだこの発想って感じで、笑ってしまいます。愛おしいです、すべてが。

ゆうちゃんの描く、迷い線も、はっきりした線も、穏やかな色も、生命力あふれる色も、どれもすべて好きです。ゆうちゃんの描く街に住みたいです。ゆうちゃんの描く世界に迷い込みたいです。
ゆうちゃんの描くキャラクターは、いつも、生きています。

私はゆうちゃんがうらやましいけど、生まれ変わったら、ゆうちゃんになりたいとは思いません。
私は生まれ変わったら、ゆうちゃんの漫画の中のキャラクターになりたいからです。

そうすると、私もきらきらして、いろんな人を幸せにできるんだと思います。

去年地元に帰ったとき、ゆうちゃんの実家が更地になっているのを見て、ドキッとしました。
私も、まわりの人も、ゆうちゃんの連絡先を知りません。
けど私は、ネットで検索すれば、ゆうちゃんの絵がすぐわかります。ゆうちゃんが今も漫画を描いていることがわかります。それがゆうちゃんの生きている証拠であることが私にはわかります。

私には嬉しいことが2つあります。
1つは、ゆうちゃんが今も漫画を描いていることです。
2つは、ゆうちゃんが今、私と別の人生を歩んでいることです。

私はゆうちゃんが大好きでした。
そしてゆうちゃんも、私のことが大好きだったようです。それは、ゆうちゃんが最近描いた漫画を読んで、嫌でもわかってしまったからです。

だから、別々で人生を歩むべきだったんだと思います。
結果的に正解だったんだと思います。
そうすることで、ゆうちゃんの想像力は、きっともっとすごいものになるからです。
そうすることで、私は、ゆうちゃんの邪魔をせずに済むからです。

もしゆうちゃんが漫画を描かなくなるときがきたら…。
そのときは、たぶん突然来るでしょう。
それはそれで、良いと思います。

それでも私たちは、もう会うことは無いんだと思います。
それでも私は、ゆうちゃんが描いた漫画を何度でも読み返します。
ゆうちゃんの漫画を読むと、ぼんやりしていた脳みそが動き始めて、胸の奥からじんわりとあたたかい気持ちになります。これが生きていることなんだって思います。これが私なんだって思います。

私は、ゆうちゃんが描いた漫画を何度でも読み返します。
ゆうちゃんの生命を、何度でも感じることができるからです。

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