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広告業界に潜むジェンダーギャップを観察し分析した本「ジェンダー目線の広告観察」

本(ジェンダー目線の広告観察)(長文失礼します)

広告に潜むジェンダーギャップの実態を、そのジェンダー目線から観察し分析した本です。筆者の小林美香さんは写真やジェンダー表象に関する研修講座や展覧会の企画の他、雑誌やウェブメディアなどでも執筆しています。

広告においてはこうしたジェンダーギャップに限定されず、LGBTQに代表されるマイノリティーへのギャップも存在し、筆者は広告業界の現状を以下のように分析しています。

「多数派が少数派を「受容し活用する」という構図と、不均衡な力関係が広告表現の中に温存され、LGBT+の存在も都合よく「活用」されている。」
また渡辺直美さんに代表されるボディ・ポジティブ(ふくよかな女性の起用)の運動に対しても、「ルッキズムという社会問題を「コンプレックスを抱く」という個人の心理状態、気の持ちようの範疇に押し込んでしまう。」と分析しています。

さらに第4章「「デキる男」像の呪縛を解くためには」では、「デキる男の実態に対する見解と、その社会背景を以下のように述べています。
「「デキる男」は年長男性からの指示に従い承認を得て、階層構造の中に従属する存在として描かれ続けていることは、因習的なジェンダー観や家父長的価値観が未だに根強く残っていることの証左。」

上記の文章に代表されるように、筆者が冒頭から繰り返し指摘するのは、広告業界では今でも上記のような古い価値観が、業界人の一般的な価値観として認識されているという事実です。
現在の広告業界では制作などに決定権をもつ管理職は、多くがバブル景気を経験した世代であり、過去の価値観からの転換が容易ではなく、ジェンダー的観点から見ても、現代の多様な価値観に対応していないと筆者はその持論を述べています。

第6章のコピーライターとの対談で、TCC(東京コピーライターズクラブ)の2016年作品募集の広告が炎上したことが述べられています。その理由が、コピーライターの複数の大御所が写り、SNS上の「いいね!」ではなく、1番厳しい人(つまり自分たち)に褒めてもらいたいのでは?との挑発的ともいえる文言の内容です。
まさに広告の受け手である消費者など眼中にない、家父長的価値観にも結び付く大御所絶対主義のスローガンのような文章だと指摘しています。

筆者は対談相手が述べた以下の文章を、ジェンダー目線から見た広告業界の現状と課題であると結論付けていると思います。
「今の広告業界の構造の中で、ジェンダー平等を打ち出す広告を作ろうとしてもうまくいくはずはなくて、根本的な構造の大転換が必要。」

これは他の業界にも共通する問題であり課題でもある訳ですが、トレンドの先端を表現する広告業界の表層の下に潜む、男性優位の家父長的価値観が根強く存在することを、改めて認識する必要があります。脱毛やダイエット、アンチエイジングに代表される煽り広告に洗脳されないためにも。

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