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日本が参戦した5つの戦争を分析した本「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」

本(それでも、日本人は「戦争」を選んだ)(長文失礼します)

東大教授の加藤陽子さんが、中高校生(栄光学園)向けに行った特別授業の内容を単行本化した1冊です。筆者の専攻は日本近現代史で、本書は小林秀雄賞を受賞しています。筆者については、日本学術会議の任命拒否問題での当事者の1人といった方がわかりやすいかもしれません。 

本書は序章の「日本近現代史を考える」から始まり、1章「日清戦争」、2章「日露戦争」、3章「第一次世界大戦」、4章「満州事変と日中戦争」、最終章の5章「太平洋線戦争」という構成になっています。 

時系列的に1章から始まる前の序章で、過去の事例を挙げながら戦争に対する様々な検証を、生徒に質問を投げかけながら解答を導いていくという授業のスタイルを取っています。 

先ず戦争の目的は何かと、フランスの思想家ルソーが考えたのは、相手国の最も大切だと思っている社会の基本秩序(つまり憲法)を書き換えるものだと述べています。これはその後の幾つもの戦争にも該当しますし、当然太平洋戦争で敗戦した日本にも当てはまるものです。戦前の天皇主権の大日本帝国憲法から、国民主権の日本国憲法へと移行しました。

さらに2001年9月11日の同時多発テロと日中戦争の共通点を述べていますが、当時アメリカはイラクに対し、テロリストと関係がある大量破壊武器所有の疑惑があると攻撃しましたが、これは相手国への戦争を名目なしに、犯罪者を攻撃するというある種の戦争の正当化で、これが日中戦争でも近衛文麿が言った「国民政府を対手とせず」と同じであり、満州事変から続く日中戦争を正当化しようとしたものとの共通点と述べています。

またアメリカの歴史の誤算であるベトナム戦争の泥沼化の原因は、中国の共産党と国民党の内戦を、ただ静観するだけで何もしなかった経過から、ロシアに隣接した共産主義国家を誕生させてしまったというトラウマからの呪縛だったとも解説しています。 

上記の5つの戦争に限らず、戦争が起こる原因として根底にあるのは、やはり領土拡大への野望であり、当時は列強(イギリス、フランス、イタリアなど)との争いであって、最終的に開戦に至るのは、外交の失敗による決裂となります。
日本同様に列強各国も国土は、アメリカと違い広大ではなく、その縄張り争いが戦争の原因となってきましたが、その主な舞台となったのが広大な国土と資源を有する中国でした。 

本書のタイトルであるどうして日本人が幾つもの戦争を選んだのか、当然知識人による戦争回避の主張はそれぞれありましたが、政治家のメンツや軍部が政治に介入する暴挙(貧困層の救済の政策など)が、軍部の勢力を増大させ国民の支持拡大にも繋がって、日本のために戦争やむなしのムードが拡大していったと推測できます。

太平洋戦争前夜のアメリカとの国力の歴然とした格差にも、短期決戦にわずかな希望的予測のもとに開戦を断行し、太平洋戦争の戦死者の9割が最後の1年半で死亡したことを鑑みれば、開戦よりも終戦の決定の方がはるかに困難であることは、明確すぎる事実なのです。

歴史の事実を教訓にしながら、過去の過ちを繰り返さないが覚悟が必要になりますが、戦後77年になる今でも、世界の各地で同じような愚行が繰り返され、あるいは繰り返されそうとしています。

本書は膨大な史料を基に、歴史修正主義とは次元が異なる客観的な考察を試みた本であり、日本人の過去を振り返りつつ、未来への道標としても貴重な1冊だと思います。

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