真面目なお仕立て代と和裁技能士の話〜再び
はじめに
先日、Twitterで、キナリ杯の存在を知りました。もしかしたら、和裁技能士の存在を、たくさんの方に知ってもらえるきっかけになるかもしれない!そう思った私の挑戦です。年始の文章を加筆修正し、再掲載!
投げ銭スタイルなので、最後まで読めます。
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私、着物を縫う仕事をしています。和裁技能士って言います。国家検定の和裁技能士1級の免許も持っています。
着物の仕立て代って高いから、高収入だよねって思うでしょ?本当のところは、全くそんなことはなくて、反物を預かって、袷の着物に仕立てるまでの工程を時給にすると750円という計算になるそう。でもそれは、パーフェクトな集中力でスーパーサイア人的な仕事ができた時の話で、下手したら500円くらいの時もある…特に浴衣とか綿麻単衣とか。
ちょっと真面目なお仕立て代の話をしますね。その話をするには、少し話題をずらしつつ過去に遡る必要があります。
私が和裁技能士1級を受験して受かったのは、2019年2月45歳の時のことです。受けようと思った理由の一つは、仕立て代の安い田舎の仕立て屋は、技術が低いと見られているのだとしたら、とても悲しかったからです。
最大の理由は、若い頃に1級の検定を受けて受かっている和裁士は「向上心」が高いと言えるっていう意見を小耳に挟んだからです。これには、正直、ムッとしました!!
私はその頃、和裁技能士2級しかもっていませんでしたが、綺麗なお仕立てがしたい、どんな物でも縫える仕立て屋になりたいという「こーじょーしん」を持って、仕事を続けていました。ブランクのある1級技能士よりも、現役で頑張っている私の方が、綺麗なお仕立てができるはず!(むきぃきぃー!←怒りの声)なんとも言えない感情が湧いてきたのを今でも覚えています。
それに、昔、呉服屋さんをまわっていた時は、和裁技能士の1級をもっていようが、2級をもっていようが一切関係なくて、自分が仕立てた着物を持参して呉服屋さんが良しとすれば、すぐにお仕事をいただけました。技能士の免許や手帳など、まったく意味がありませんでした。あんなもの、紙くず同然!!(あ、ごめんなさい、言いすぎました。)でも、正直、検定の存在すら、あまり知られていなかったのではないかと思います。
さてさて、技能検定を受けた時の話に戻します。2019年2月、寒い寒い冬の日です。針の穴に糸を通すことが一発でできなくなった身ゆえ、シニアグラスをかけて若い子に混ざって受験。といっても1級受験者は、な・な・なんと私を含め2人!!
向こうは若いし、和裁学校在学生やんな〜検定の先生とも顔見知りやし〜
なんてこった〜また落ちるか私…
え?また??今、またって言った?はい、言いました!恥ずかしいので、大々的に宣言していませんでしたが、実は、2018年2月に1度目の受験をしていたのです。でも、木っ端微塵に砕け散ったのですぅ。はい、つまりは落っこちたわけですが、受験者は、私たったの1人でした。
まぁね、一度で合格するとも思っていませんでしたよ。なぜって、学生時代だと、検定対策が月一あって、試験と同じように丸一日かけて練習するのです。和裁技能士の実技試験というのは、7時間かけて着物を仕立てます。他のどの技能士の実技試験より長い!
卒業してから受ける、歳をとってから受けるというのは
1:集中力が落ちてから受ける
2:大した対策もなく受ける
3:有名和裁学校という名の後ろ盾もなく受ける
まさに三重苦ですよ。
例え、私が現役で受けていたとしても、3はありませんでしたけどね。3は結構大きいと勝手に思っている私は、ひねくれ野郎です。
はてさて、2018年の受験は、どんなところで、どうやって実技試験が行われるのかを体験するだけの、様子見の受験に終わったのでありました。
とはいえ、落っこちた私は思ったわけですよ。やっぱり田舎の仕立て屋の技術は劣るのか…所詮、向上心のない2級技能士って思われたまま歳とって、和裁技能士人生が終わるんだわ…1級和裁技能士にはなれないんだ…
悔しい…うぅ…悔しい!悔しい!!悔しい!!!どうすりゃいいんだ〜
なんとかして受かりたい。でも、この実技試験、どこが悪くて落っこちたのかがわからないのです。点数も、減点箇所も教えてもらえないのです。どこが悪かったか分かれば、来年の対策になるというのに、教えてくれない。受験者を合格させる気がないんじゃないか!プンプン!!
怒っていても埒が明かない。なんとかせねば、どこが悪いのか知りたい。そして、リベンジしたい!何年かかってもいいから、死ぬまでには1級和裁技能士の仲間入りがしたい!!(当初の自信は何処へやら…)
そんな気持ちでいた折、同年4月、東京キモノショーにおいて、和裁職人大賞を決める募集があり、仕立てた着物を応募すれば、著名な先生が審査してくださると知りました。
これはまたとないチャンス!自分の仕立てのどこが悪いのか教えていただける!!しかも、提出者の名前はわからず番号制。後ろ盾もなにもわからない。めちゃくちゃ公平や〜ん!ひねくれ者の私には、まさにぴったり〜
1:検定のように時間制限はなし。集中力が落ち、シニアグラスに頼る身でも、慌てなくて良い!
2:対策しなくても、いつも通りに縫えば良い!
3:提出は番号制なので後ろ盾は分からないから、気にすることなし!
おったまげ〜三重苦から、三大特典に変わってるで〜!!
とにかく、その時に持ち合わせている全ての技術を発揮すべく、丁寧に縫いました。少しでも、どうかなぁと思うところは、何度もやり直しました。検定試験では、ありえないことですけど、これでいいのよ。みんな、同じ条件だもの!
審査発表の日の深夜。
日も変わって、仕事を片付けてそろそろ寝るか~という時に、和裁職人大賞 受賞のお知らせというメール。
は???どーゆーこと?
深夜に疲れて布団に滑り込むように寝る毎日。それくらい、薄利な仕事です。件名を見てすぐには、意味がわかりませんでした。メールを開けると「宮西さまの作品は、☆3つを獲得しました。」という文章が!!
マジか~ホンマか~と、じわじわと嬉しさがこみ上げてきました。深夜なので、一人でガッツポーズをして、ニヤニヤしながら眠りにつきました。まじめに仕事に取り組んできてよかった~田舎の仕立て屋やけど、技術は劣ってなかったんや〜と思いながら。
目覚めた朝、たとえ、若くなくても平常心で自分の全てを出し切れば、和裁技能士1級にも合格できる。何年かかっても構わないから受験し続けようと思ったのでした。和裁職人大賞の三ツ星獲得というのは、大きな自信となりました。結果、翌年2度目の受験で合格し、晴れて1級和裁技能士の仲間入りができました。
これで、田舎の和裁技能士でも、都会の和裁技能士と対等にお仕事ができる証明になるよねって思いましたか?でもね、すぐに仕立て代に反映されるということではないのです。
今、普通の小紋のお仕立て代は、都会だと26000円くらいかな。著名な方で35000円。もっと上だと45000円らしい。田舎の私で20000円です。もっと、少ない方もいらっしゃいます。
これはあくまでも、和裁技能士さんの手元に入るお金であって、お客様が呉服屋さんに、お仕立て代として支払っている金額は、もう少し上ではないですか?私が呉服屋さんのお仕立て物を仕立てていた20年くらい前は、和裁技能士の手元に入る金額にプラス5000〜10000円くらいの金額を、お客様にお仕立て代として請求していたと思います。これくらいの上乗せなら、まだ良心的な方かも知れません。仲介料とか手数料みたいなものですね。
お仕立て代の名目でお客様からいただくんなんて、なんだかなぁ。どうせなら、反物の価格の中に入れておいて欲しいって言うのが、和裁技能士の正直な気持ちです。
だって、今でも、仕立て代が高い高いってお客様から言われて、悲しい思いをしている和裁技能士さんがたくさんいます。中には、お客様がお仕立て代だと思って払っている金額の半分くらいしか、和裁技能士に支払われていないこともあると聞きます。時給にしたら、500円〜750円なのですよ。国家検定に受かっていても、です。もっと安くできないのかって、値切られることもあるのです。
話がそれました。さっきの小紋のお仕立て代を思い出してくださいね。3日で1枚縫ったとして単純計算で1か月で10枚お仕立てできますね。月の収入が20万と45万。この差は凄いでしょう。
仕事に対してそれなりの対価は必要だと思うけど、小紋に45000円のお仕立て代をいただけるのはそれなりの金額の小紋を購入している生活層の方々ですよね。私のところに、依頼してきてくださるお客様は、オークションでお手軽な値段で購入した小紋だったり、箪笥にずっとしまってあった反物だったり、普段着物を楽しんでおられる方の木綿だったり。縫い直しのものだったり。
着物は一部を除いて、芸術とか伝統とかの分野の話ではなくて、今を生きる人が楽しんで着る衣服であると考えると、自分で仕立てることができなくなった現代では、仕立て代と言うのは大きな問題なのです。
お手頃な金額の小紋に、45000円のお仕立て代なんていただけないと思ってしまう貧乏性の私。こんな考えの和裁技能士さんはいっぱいいると思うのです。でも仕事として食べていけなければ、日本から和裁技能士さんがいなくなる。そんな未来はすぐそこなのかも…すでに、海外縫製は多いです。
若いこれからの和裁技能士さんのために、お仕立て代をどう設定するのか。自分が良いからと、安い値段設定にすることは、後輩のために良くないのです。仕事に見合った対価とは、どれくらいが妥当なのか、本当に難しい話です。お仕立てを依頼したいお客様と和裁技能士さんを、どうつなげてあげたら良いのか、そんなことも考える年齢になりました。
これは、去年から和裁士仲間で話しても解決策のでない問題なのです。個々の和裁士さんは、それぞれ同じようなことを考えて悩んでいるのですが、これと言った答えが出せません。もっと影響力のある方が、バシッとまとめてくれると良いのでしょうけど、田舎の無名な一和裁技能士が、負け犬の遠吠え的な発言をしても、誰の目にも止まらないというのが現実です。
そんな私ができることは何かと、昨年末から色々考えた結果、とりあえずTwitterで仕立てている動画をアップしよう、というものでした。教える動画ではないのです。和裁の技術を自慢するものでもないのです。着物って、本当に和裁技能士さんが一針一針手で縫っているということを、着物好きの方はもちろん、着物に興味のない若い子にも知ってもらえるように。
洋服すら安く買って捨てることが普通になった現代で、一針一針着物を縫うことを仕事をしている人がいるということ。着物は、仕立てたあとでも、解いたらまた1枚の布に戻り、他の何かに生まれ変わることができる衣服であり、究極のリサイクル衣服だということを、できることなら1人でも多くの方に知ってもらいたい。そんな願いを込めて、コロナ禍で大変なこれからも、和裁技能士としてがんばります!
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noteも書き始めました。和裁技能士目線の、着物の記事です。知らない世界を垣間見る感じで読んでいただけたらと思います。
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