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アメリカンツールよ永遠なれ(2008年2月6日)

2024年2月2日に想うこと



このnoteでは、過去の日記を振り返りながら、今の気持ちを添えて皆さんに公開しています。。
昔の日記を読み返していたら
2008年に当時のGAKKENさんから出した
「工具の本2008」の
アメリカ取材のまとめとして書いた生原稿が出てきました。

掲載されたときには文字数がまとめられてしまっていますが、
この生原稿には、当時の私のかなり、熱い気持ちが込められていて
若さが溢れ出ています。

2007年に取材したときの思いなんだけど、
アメリカブランドがドンドン商業ベースになってしまって
アメリカ工具の魅力が薄れてしまっていることを
現場で強く感じていたのだと思います。

あれから17年。
今や日本では世界中の工具が手に入ります。
そのなかでアメリカのハンドツールの輝きは
だいぶ薄れてしまいました。

すでに17年前に今のこの状況を予測していたような
そして、そんな状況を
アメリカ工具に憧れて工具を自分の人生の
仕事に選んだ私の嘆きの声ですね・

どうぞ!


2008年工具の本生原稿


「アメリカンツールよ永遠なれ」


今回のアメリカ取材は準備不足だった。カリフォルニアで発生した森林火災が、今回取材準備をしていた現地スタッフに深刻な影響を及ぼしてしまったのだ。結局、当初予定していた取材準備が全て完了しないまま今回の取材はスタートした。

しかし、アメリカの工具文化の奥深さは僕の予想以上だった。

工具の取材という、世の中では一般的とはいえない内容であるにも関わらず、次々と工具が現れる。
そして、工具を語りたい人、工具を見せたい人も、必死で探そうとしたわけでもなく現れる。
アメリカという国ではクルマやバイクなどを追いかければ、必ずといってよいほど工具を熱く語る「人」に出会える。
これはあたり前のように思うかもしれないが、日本で同じように動いても実はなかなかこういう状況にはならない。

日本の場合は、良い工具を使うことよりも、なるべく工具などを使わずに自分の技術で仕事していることを誇りにする人が多い。だから、日本で工具の取材に歩くと、工具なんかあんまりこだわらないよ、という職人肌のメカニックさんが多いのだ。工具を使わず創意工夫で仕事をすることを「美」と考える文化があるからだと思う。

しかし、アメリカのメカニックは根本的に違う。
本文でも触れたが、如何に効率よく仕事をこなすかは彼らの収入にも大きく影響するから当然工具を活用する意識は高い。
どの工具を使えば出来なかった仕事が出来るようになるのか?彼らはそのために同じレンチでも数多くの種類を使い分け、使い方さえも考え出す。
こうしてメカニックが持つ工具は膨大な量となり大きなキャビネットのなかに収められる。
そうして集められた工具は彼らの技術の一部となり、彼らの生活を支え家族を育てる。アメリカの工具はそんな貪欲なメカニック達によって鍛えあげられ進化してきたのだ。

今回、出会ったメカニック達に工具を選ぶ基準はなにか?と問いかけた時、みな「人」だと答えた。工具そのものがよいか?悪いか?ということももちろん大事だが、その工具を届ける「人」こそが自分たちが仕事をする上で大事なパートナーだというのだ。

これは、工具を売る「人」がどれだけイイ人かどうかということではなく、その「人」が自分の要望に応えたものをどれだけちゃんと提供してくれるかどうか?それが大事という意味である。

今回出会ったメカニックから今のアメリカの工具についてヒアリングすると、若いメカニックであればあるほど、もうさほど工具のブランドにはこだわりがないのである。

しかし品質や使い勝手に対するこだわりは相変わらず高い。この要求にどれだけしっかりとこたえてくれる「人」がいるか?にこだわっているのだ。

今、アメリカには100年に渡って彼らが育んだアメリカの工具だけではなく「GEAR WRENCH」に代表されるような高品質で低価格の工具が流入してきている。マックバンもマトコバンも自社のブランド商品だけでなく、ユーザーのニーズに合わせた商品をセールスマンが自身の目利きで選びユーザーに届けている。マックバンのトニーが言った。

「僕たちが何を売りたいかじゃなくって、お客さんが何を欲しいかなんだ。」

アメリカの工具が進化し世界の工具業界のトップをひた走り続けたのは、この人と人とのつながりで吸い上げられたオイルまみれの生きた情報があったからなのだ。

それは決して机の上でデザイナーがひっぱった洒落たデッサンから生まれたものでもなく、人間工学の専門化が3次元CADで生み出したものでもない。

最近のアメリカの大手ブランド工具はアメリカの工具が長い歴史のなかで培ってきた大事なことを忘れてはいないだろうか?
もう一度100年前の工具を手に、そこから溢れ出る過去の現場の熱い息吹を感じ取り、新たなるアメリカンツールの歴史のページを作って欲しいと思う。

全世界のアメリカンの工具を愛する沢山の人々のために今こそ、僕は叫びたい。

「アメリカンツールよ永遠なれ」

2008年「工具の本」生原稿

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